セーラー服とエプロン3

a.kinoshita

第一章

第1話 男装の麗人

 -奥プロ事務所-


 つけたままのテレビから。

 東京の街を颯爽と歩く、ショートでスーツを着こなしたHAL、こと、はるが歩くシーンが映し出された。


 -男装の麗人-

 シンプルなナレーションが流れて、はるの少し遠くを見つめる姿に、ブランド名を重ねた映像は、掛け値なしの美しさがあった。

 けれど。

「あ、また今日も来ましたよ」

 窓から外を見ていた太一が、声をあげた。

「またか」

 社長が苦笑した。


「社長ー!」

 ドアを開けるなり、はるは事務所のソファに倒れ込むように身を沈めた。

「ねー、こう、わしわし、胸をみしだいてるんだよ!わしわし、わしわし」

「はるちゃん、手はやめようね、手は」

 やんわり、太一がたしなめた。

 はるが悶絶しているのは、はるの愛してやまない日高の、二作目の舞台での濃厚な濡れ場の演出があって。

 毎日のようにお忍びで観に行っては戻って事務所で、こうして悶絶しているのだ。

 でも。

 ひとしきり騒ぐと。

「ほら、大学がっこう行く時間だよ」

 太一の声に。

「うん」

 小さく頷いて関君、という、はるに着いた新卒のマネージャーと静かに出てゆく。


 その姿を見ながら。

「あのCMと別人ですもんね、はるちゃん」

「どうしていいか、わからないんだろうな。かわいそうな籠の鳥を自由にしてあげたはいいけど、本当の日高を知るにつけて、戸惑ってるんだろうな」

 呟くように社長が言った。

「日高ちゃん、芯、しっかりしてますもんね」

「ああ。頑固な所もあるし。例のオファー、僕も迷ってるんだ」

「あれですか」

「ああ。はるには言わないでくれって言うからね。まだ伝えてないけど」

 それっきり、社長も黙ってしまった。


 会社の厚意で、二人は会社の所有しているマンションの隣同士に住んでいた。

 三○一が、はるで。

 三○二が、日高で。

 この日、大学から戻ったはるは、夕食を作って日高の帰りを待っていた。

 六時を少し回って。

「はるー、ただいまー」

 日高が帰宅した。

「今日、何?」

「カレー」

「はるのカレー、おいしいもんね」

 コートを掛けながら笑う、日高に。

「ねえ、日高。あのさ」

「何?」

 日高が振り返った。


「あのね」

「うん」

「私と、つきあってほしいんだ。恋人として、正式に」

「えっ」

 日高は、じっと、はるを見つめて。

「つき合ってなかったの?」

「えっ」

「私はそう思ってたけど」

「そうなの?」

「うん。だって」

 日高は、ゆっくり、はるに歩み寄った。

「はるのことが、大好きなんだもん」

 そう言って。

 はるに手を伸ばして抱きしめた。

 そして。

「じゃあ、改めてよろしくねー」

 日高は。

 優しくはるにキスをした。

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