酒場での慰安会
「「「かんぱーい!」」」
「「……」」
セイル、ドイル、アルフィーがグラスを持ちながら言う。お酒を飲む前に、既に雰囲気に酔っている。
その隅で、置いてけぼりを食らう俺とナーサさん。しかし、俺は15だし、酒の場の雰囲気を知らん。というか、酒を頼んでない。この世界では俺は成人しているらしいが、日本での感覚が抜けない。
隅っこ同士のナーサさんと目が合う。耳がぴぴぴ、と揺れ、目を逸らされた。なんですかその反応。そんなことをしてしまうから勘違いする男子が出てくるんですよ! いや、こんな素っ気無い態度をとられて好きになりかけるのは俺だけか。よかった。
あの後、起きたら夜になっていた。セイルを起こして、ソラノさんや、他の修道士さんたちにお礼を言って、教会を後にした。そして、ギルドに行ったら、入り口のところに皆がいたので、そのまま酒場に皆で突っ込んだわけだが……。
「ぅん、んぐ、ぷはぁー! 仕事の後に飲む酒は格別だな!」
ドン、とグラスを机において、ドイルがいう。なんかこいつ酒強そうだな。水をちびちびと飲みながら思った。
「はあーーー。ほんっと、今回は死ぬかと思ったわよ!」
ドイルの行動を再生するかのように、アルフィーが言った。すごい。グラスを叩きつける音まで完全再現だ。こいつも強そう。
「はは、みんな、そんな一気に飲みすぎるなよ。今夜は語り明かそうじゃないか」
セイルがリーダーらしく言う。流石だ。俺にはこの酒飲みたちは止められないだろう。
うむ。なるほど、これが仲間と語り合う場の雰囲気か。若干飲まれつつあるが、把握した。
そのとき、店員さんが近くに通りかかる。セイルが声を掛けて、呼び止めた。
「あ、すみません。
セイルが店員に注文している。
その間に、アルフィーとドイルが聞いてくる。
「ねえ、ラード。あの後どうなったの。私、気を失っちゃって」
「ああ、俺も気になる。奴は手強かったな!」
「ああ、それの前にちょっとな……」
アルフィーとドイルが疑問符を浮かべる。セイルが注文を追えて、テーブルに顔を向けた。
「実は、みんなに話すことがある。ラードについてなんだが……」
「ああ、来る途中になんか言ってたわね」
「内緒と言ってな! 楽しみだ! がははははは!」
「……」
「セイル、俺が話すよ」
水のグラスを置く。ちびちび飲んでいたから、全然減っていないな。
「ちょっと長くなるな。まず俺は……」
______
「えぇ~~!? ラードが別の世界からやってきた人間だって!?」
そう、これだよこれ。アルフィー、ナイス反応。
「むぅぅ……」
「……すごいね」
「ナーサさん、今のもう一回言って、すごいって」「嫌」「はい」
アルフィーが驚きの声を上げて、ドイルが腕を組んで唸っている。ナーサさんは可愛い。しかし、アルフィー、めちゃくちゃ声でかいが、大丈夫か? と思って店内を見渡すが、どこも馬鹿騒ぎしてた。どうしようもねえな酒飲み。
アルフィーが、一層テーブルに体を乗り出して、勢いよく聞いてくる。
「そ、それって、何かとてつもない強大な魔法とか……そういうもの!?」
「いや、俺も転移した原因は分からないんだ」
「いやいやいや! ちょっと~しっかりしてよ」
右手をぶんぶん振りながら、呆れたように言うアルフィー。
「なんかあんのか?」
「いい? 別次元からの召喚なんて高等な魔法、原理なんかまず解明されてない。どこを探しても、そんな魔法を扱える人はいないわ。王立魔術研究所でも、もちろんね」
遠まわしに、元の世界には戻れないぞ、と告げられてる気がする。こいつ無自覚だな? よかろう、許してやる。
「でも、過去に一人、この世の魔道の全てを知り尽くしたとされる、大賢者が存在したの」
「……そいつは?」
「名を、『シュドール・マジモラトラム』。かつての人魔大戦で、【勇者】と肩を並べた魔法使いよ。彼は、今現在使われている魔法の基礎の全てを作り上げた存在なの。原点にして、到達点。彼の遺物が世界中に残されていて、それを狙う冒険者も多いの! ラード、あなたの転移は間違いない。シュドールが残した遺志によるものよ!」
アルフィーがその場で立ち上がって演説でもするかのように語った。テンションあがるの早いな……。
しかし、はた迷惑な奴だな。シュドールとかいう奴。もしそいつが俺を召喚してたとしたら、どんな意図があってそんなことを。しかし、思い返しても、彼が残した遺物らしきものはあの森には存在していなかったように思えるが。
……シュドール・マジモラトラム。どこかで似たような名前を聞いたな。最近人名が多すぎて、あまり覚えてない。呼び名なら覚えてるんだがな。
すると、うんうん唸っていたドイルが口を開く。
「なるほど、ラードのあの身のこなしは、異世界のものだったのか。見事!」
「……いや違うけど……」
「ラード、やはりお前は頼りになる奴だ!」
聞こえてねえ。ジェネラルの防御を突破したりと大活躍だったドイルの方が頼りになりそうだが。
「――――ふふっ」
鈴の音が、笑った。一瞬、耳を疑う。音が聞こえた方を見ると、ナーサさんが口元を抑えていた。なるほど、ドイルには聞こえなかったが、耳の良いナーサさんには聞こえたのか。
「今、ナーサさん、笑った? 笑ったよね!? もう一回お願いします!」「嫌」「そこを何とか!」「嫌」
くそがああああああああああ。見逃した。天使の微笑みを!!
『ソラク、リーフにも構ってください!』
ふよふよと、どこからか出てきたリーフが俺の目の前でふくれっ面になった。どうやら、拗ねてしまったらしい。
「はいはい。うーん……。『
指先で風の塊を創り出す。それを使ってリーフを追いかける。
『いやー! やめてよ~』
悲鳴を上げて俺の指から逃げるリーフ。嗜虐心が少し掻き立てられる。まあ、リーフはキャッキャ言って喜んでるけど。ほどよい速度で指を動かす。
「……そこに、精霊がいるんだよな?」
セイルが聞いてくる。パーティの皆が興味深げに俺の行動を見ていた。ちょっと恥ずかしい。
リーフは、普通の人には認識すらできない、半物質であり、二次元的、四次元的存在だ。ソラノさんが認識できていたのでちょっと感覚が狂っていたが、今見えてるのは俺だけだった。
「あ、ああ。決して一人遊びをしているわけじゃないからな。アルフィー、そのニヤニヤした顔をやめろ」
「いや、あんた、傍から見たら不審者にしか見えないから……くふふっ」
他の奴は許せるが、アルフィーのようなポンコツにバカにされるのは許せん。
「……私は、少し感じる」
ナーサさんが言う。
「え? マジで?」
「うん。ラードの指に追われるようにして、何かが逃げ回ってるように感じる」
喋りすぎた、と言って水をちびちび飲む作業に戻るナーサさん。どういうことだろう。ナーサさんは魔力の扱いに慣れていないから、魔力の感知はできないはずだが。
「……ちょっと、試す」
ナーサさんが水の入ったグラスを置きながら言う。皆で見守る。
何を試すというのだろう。
「ドーシュの加護よ」
目を瞑り、右手の甲を唇に当てながら、そういう。そういえば、洞窟の中を探知するときにも、同じことを言っていた気がする。
「その、ドーシュの加護ってのはなんなんだ?」
セイルに聞く。こういうのは大体セイルに聞けば間違いないからな。
すると、セイルは酒を置いて、つまみの豆を食べながら、言う。
「ドーシュ。『狩神ドーシュ』のことだな。外大陸の『真なる獣たち』に伝わる、狩の神のことだ。全ての獣に、恩恵をもたらす獣神。狩りの前に、右手の甲に唇を当て、右手が狂いなく獲物に届くことを祈る儀式をすることで、ドーシュ様がその狩りを見守ってくれるらしい」
「俺の精霊は今からナーサさんに狩られるんですかね……」
『そんなのやだよ!』
俺もやだよ。リーフを狩るぐらいなら俺を狩って欲しいものだ。
「なに、ドーシュ様は寛容らしい。気軽なことでも、宣誓をすれば力を貸してくれるそうだ。狩る目的じゃなくてもいいのさ」
ナーサさんは亜人族である、獣人。そこには、外大陸の真なる獣の血が入っている。恐らく、ドーシュ様の加護を得られるんだろう。
そして、ナーサさんが目を開く。瞳孔が開いていた。あ、猫ってこんな目することあるよな。碧色の虹彩が目立って綺麗な瞳が余計、宝石のように美しい。結婚したい。
「……あなたが、ラードの精霊?」
『見えるの?』
「……何を言ってるかは分からない」
『ほらほらー!』
リーフが宙で左右に飛ぶと、その動きに合わせて、ナーサさんの顔が動く。なんか、遠隔ねこじゃらし的な……そんな感じだ。
「本当に見えるの?」
アルフィーが聞くと、首肯するナーサさん。確かに、見えている。
「可愛い妖精」
『えへへー。照れるな~』
「……可愛い」
「リーフが、照れるって言ってるな」
「……ふふっ。ドーシュ様、ありがとう」
ナーサさんが人差し指を差し出す。そこに、リーフが乗る。インコを指に乗せるみたいだ。
リーフを見て、笑みを溢すナーサさん。うお可愛い。リーフも笑みを返す。こっちも可愛い。なんだあの空間は。癒し。見ているだけで浄化される。やだ、尊い……。
「ナーサがあそこまで素直な笑顔になるの、初めてみたわね……」
「そうだな……よっぽど、その精霊が可愛いんだろうな」
「……精霊、強いのだろうな」
ドイルはどうにも、物事を差し計る基準がいつも違うんだよなぁ……。
そんなドイルの為に、言う。
「あのゴブリンキングを倒したのが、リーフなんだ」
「な、なんだと!? あの強敵を……精霊とは、強きものなのだな」
「ああ。しかも、キングはあの後、進化したんだ。悪魔みたいな姿になって、とてつもない力を感じた。リーフがいなきゃ、みんなやられてたさ……」
「むぅぅ! そんなことが……俺も、修行が足りないな!」
やばい。ちょっと舌が乗ってきた。まあ事実しか言ってないからいいだろ。
「ああ! ドイル、そのときは俺もつき合わせてくれ!」
「そうか! ラード、共に成長しよう!」
「「がははははは!!」」
「……似てるわね。あんたたち」
がはははは、その笑い方はもうマスターしたぜ!
しかし、実際、剣術で言えばセイルとドイルは俺よりも巧みだ。俺は、敵の動きを読む集中力があるだけで、技巧はない。そろそろ本格的に剣の修行をしたいと思っていたところだ。
教会のあの後、眠ったときに、意識の底にある魔力の海に沈んだ。しかし、魔力がかなり減っていた。恐らく、ゴブリンデーモンに放ったあの強大な魔法、『
徐々に魔力が回復していくとはいえ、その海を思わせるほどの魔力容量全てを満タンにするのはかなり時間がかかる。魔力だけに頼っていては、そのうち墓穴を掘る。それに、魔法についての知識が俺にはないしな。基礎の基礎は元宮廷魔術師のスーバさんに教えてもらったとはいえ、最低限だ。アルフィーの魔法構築と俺のを比べると、決定的なまでに、効率と発動までの時間が違う。
だからこそ、『
それに、あれはリーフがいたからできたこと。俺一人では絶対に無理。
それを踏まえて、魔法の修行もしたいし、剣の修行もしたい。やりたいことだらけだ。
「ご注文の品で~す」
鹿獣人の給仕が料理を運んできた。
「ごゆっくりどうぞ~」
蒸気が発生している。最近寒くなってきたこの世界で、ありがたい暖かさを持った、料理だ。
『わぁ~!』
リーフが、ナーサさんの肩の上で目を輝かせている。君、食べられないでしょ。ていうか、そこ定位置になったの?
この世界、料理は美味しい。というのも、ここが交易都市だからだろう。様々な商品が行きかい、比較的相場が崩れずに、安い値段で調味料が手に入るこの街では、料理店が盛んなのだ。
「みんな、食べようか」
セイルが言う。それぞれに食器を配って、やがて席についた。
「いただきます」
俺が両手を合わせて、食前の挨拶をすると、皆が驚いたような顔でこちらを見ていた。
ああ、なるほど。文化違い。今まで一人、宿の隅っこで食っていた俺は毎日欠かさずにやってきたが、人に見られたのは初めてだな。くそ、こんなところでソロの影響が出てくるとは。
「あーっと……前の世界での挨拶なんだ。作ってくれた人や食材に感謝するって意味でさ」
「へえ……私もやってみよっと」
アルフィーが真似をする。すると、皆が真似をして、結局全員が、日本式挨拶をした。
「「「「いただきます」」」」
……なんとなく気恥ずかしい。
さて、恥ずかしさを紛らわせるために、煮込みを口に入れる。
やっぱ、美味いんだよなぁ~。オリーブオイルと、トマトソース。なんかよく分からん葉っぱが肉の生臭さを完全に消してる。噛むたびに肉汁が出てくるようだ。
ま、そんなやつだから美味いんだけど。どの料亭も
「酒が進むわね~」
「はぐっ ぅぐん。がはははは! 最高に美味い!」
「ああ、本当に美味しいな。止まらないよ」
「……」
ナーサさんは、はむっはむっ、という感じで肉に噛み付いていた。噛み付いていたああああああああ! うおおおお! うん。
『リーフも食べたい』
すると、ナーサさんの肩を飛んで、俺の前、テーブルに乗っている煮込みの皿の横に、着地した。そして、食べたい、と。
「食べたい……ってもな」
「んぐ……んん。あら、精霊さんにおねだりされてるの? ラード」
「ああ、食べたいってさ。何かいい方法はないかな」
アルフィーが酒を飲みながら聞いてきた。アルフィーなら何か知ってるかも。
「魔力は万物に宿るのよ。当然、この料理にもね。魔力を操作すれば、もしかしたら精霊に与えられるかもね。精霊士じゃないから詳しくないし、根拠はないけど」
「なるほど」
右手を煮込みに向ける。そして、魔力を引っ張り出すように願う。
『おお~』
肉から魔力が放出され、それをすかさずリーフが吸い込んでいく。
『美味しい』
「魔力に味があるのか」
『ソラクと同じものを食べなきゃだめ!』
ああ、なるほど。俺とリーフはある程度繋がりがある。それは、感覚の共有であったり、魔力の共有であったり。そこで、俺が肉を食べて、リーフがその魔力を食べることで、相互に感覚をやりとりしているのかもしれない。
現に、俺の中に微量の魔力が流れ込んできたのを感じる。まあ、すぐに霧散してどこかへ行ってしまうが。
「一緒に楽しめるな、リーフ」
『嬉しい』
「……私も、リーフと会話したい」
ナーサさんが珍しく、自分の意見を言う。しかし、俺にはどうしようもない気が……どうにかしてあげたいけども。
『ナーサは暖かいのです!』
「……! ふふっ……」
ナーサの胸元へ飛び、そこに乗るリーフ。おい、俺が合法的に胸を凝視できる状況を作るのはいいがな、それは俺のポリシーに違反するんだぜ。ていうか、恐れ多すぎて見れん。でもちらちら尻目に見ちゃう。
「ナーサは、ラードにそうやってじろじろ見られるの、嫌じゃないの?」
「そうだな、俺もずっと気になってた」
「がははは! ナーサはそんな器の小さい女ではない!」
「君ら何言ってるの。俺はナーサさんをじろじろなんか見てない!」
「「「いや今も見てるじゃん」」」
「ぐ……」
事実。現実の事実とは、非情なり。そこに、俺がどれほど葛藤をし、苦悩したか、全く考慮に入らないのだ。俺はただ、じろじろ見続ける変態の烙印を押されるのみ。悔しい。でも感じちゃう。
注目がナーサさんに集まる。まあ、しかし、実際俺もやりすぎなんじゃないかと思ってる。日本なら完全にセクハラだし、ナーサさんに強く拒否されたことがないから、調子に乗っていた面もある。ナーサさんが嫌と言うなら、金輪際禁じよう。
そして、判決のとき。ナーサさんが口を開く。
「……ラードは、発情してるわけじゃないし……好意的に見られるのは、そこまで嫌じゃない……」
温情。恩情。情け。女神。慈愛。優しさ。思いやり。ていうか発情て、そんな。
そして、俺は調子に乗る。
「な、ナーサさん……そ、それなら、尻尾触ってみてもいいですか」「嫌」「ですよね」
ダメか。今ならいける気がしたんだがな。
その様子を見てた皆が思い思いの感想を口にする。
「ラードは、ナーサが絡まなければかっこいいんだがな……」「ほんと、なんというか、しょうもないというかって感じね」「ふははは! 面白いな! がーはははは!」
おい、君たち。酒で口が軽くなってるんじゃないの。
串を口に運ぶ。お、これは潜牛の奴か。歯ごたえがあって美味い。
食いながら、口を開く。
「ていうか、俺の話はいいんだよ。もう結構したろ。俺は皆の話が聞きたいんだけど」
そういって、皆を見渡す。そして、全員が首を回して、お互いに顔を見合う。
「っぷはは! 何よ、誰も話さないわけ?」
アルフィーが状況に耐えかねて、笑いながら言う。
「いや、誰が最初に話し始めるかとかさ」
セイルが串を手に取りながら言う。
「後、何を話せばいいか分からないというのもあるな!」
ドイルが串を一気に全て頬張りながら、言う。
「……同意」
ナーサさんも串を一つずつもぐもぐしながら言う。
「お前ら……じゃあ、このパーティはいつ組んだんだ?」
「それは最近のことだぞ。2ヶ月前ぐらいじゃないかな」
セイルが答えてくれた。よし、お前が話せ。
その意思を受け取ったのか、セイルは話し始める。
「最初は、俺がパーティメンバーを探していたんだ。ギルド内で、後衛職の人をな。そしたら、既にパーティを組んでるアルフィーとナーサが声を掛けてくれて、3人パーティになった」
「うん」
「それで、F級の依頼をこなしていって、3人でE級に昇格したんだ。その時に、俺の担当者の人が、パーティ人数は4人以上がいい、特に、前衛は2人以上が好ましいってアドバイスしてくれてな。その時、メンバーを探しはじめたんだ。それで、ラードに声を掛けたんだよな。すごい冷たい対応されたけど」
なるほど。あの時3人だったな。前衛を探してたのか。
「懐かしいな。そんな感じで俺に声を掛けてきたのか」
「あの時、ラードなんて言ったっけ?」
「……俺はパーティに入るつもりはない。他を当たってくれ。って言って速攻ギルドを出たな。あの時は金がなくて必死だったんだ」
ジジイに甘えてる自分が情けなくて、宿だけ紹介してもらって、冒険者稼業を始めた、間もないころ。ゴブリンを殺すことにすら精神的ショックを受け、加えて人を避けなければならないという状況が、余裕を失くしていた。
「ああ、そうそうそれ。今思い返しても酷い対応だったなぁ、ラード」
「まあ、仕方ないよ」
「それ俺が言うセリフだよ」
実際、仕方ない。人間誰しもそういう時期はあるもんだ。知らんけど。
「その後、俺が誘われたというわけだ!」
ドイルが話しに入ってくる。なるほどな。というか、ドイルはソロでE級になっていたのか。親近感が湧くぜ。しかし、少し気になる部分があったな。
「ナーサさんとアルフィーは元々知り合いだったのか?」
「ん~~~~~~~~~~まあね」
ためが長い。何か事情がありそうだ。
「話したくないならいいよ」
「酒の席でそれは禁句よ、ラード」
「あ、そすか……ちっ、めんどくせぇな、年増が」
「え!? 今何か言ったよね!? 明らかに私を罵倒するような何かだったよね!?」
「いやアルフィーめっちゃ可愛いって」
「絶対そんなこと言わないじゃん!」
あははははは、とパーティの笑う声がする。幸せのひと時。
危険な冒険の後の話には、花が咲く。それを実感した日になった。
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