第27話

「何故なの?

 妾のどこが気に食わないと言うの?

 許せない。

 絶対に許せない!」


 ビクトリア王女は怒り哀しんでいた。

 自分が妊娠し子供を産んでいる間に、ジョージが侍女と浮気していたのだ。

 絶対に許せなかった。

 わがまま放題、好き放題に育てられたビクトリア王女には、自分を裏切った人間への耐性などなかった。


 ましてジョージは、ビクトリア王女の御陰で伯爵位を賜っているのだ。

 本来なら実家の予備として、死ぬまで飼い殺しにされるはずだったのを、ビクトリア王女が父王陛下に御願して、無理矢理伯爵位を授けてもらったのだ。

 家格を合わすために、父王陛下はヴラド大公に借りまで作っているのだ。

 父王陛下にあわす顔がなかった。


「フレディ。

 私の恨み、晴らしてくれますか?」


「御任せください。

 王女殿下を蔑ろにし、恥をかかせたジョージを殺して御覧に入れます」


 ビクトリア王女は、守護騎士のフレディ・ライトに相談した。

 ビクトリア王女は、自分の怒りと哀しみを吐き出した。

 フレディはビクトリア王女の無念を晴らすためにジョージを殺す事にした。

 ビクトリア王女の屈辱を晴らす事も大切だったが、王家の体面を守るために、密かにジョージを殺す事にした。


 フレディを含めたビクトリア王女付きの者達は、内々に国王陛下から密命を受けていたのだ。

 それは時機を見てジョージを殺す事だった。

 だから絶好の好機だった。

 愛憎入り乱れるのが男女の仲、ビクトリア王女の気持ちが変わらないうちに殺す心算だった。


 その知らせは逸早く国王陛下にも届けられた。

 国王陛下はいたく喜ばれ、王家の斥候に暗殺を命じられた。

 誰にも分からないように、毒針を使ってジョージを暗殺させた。

 可哀想だったのは、ジョージの浮気相手だった。

 全てを闇に葬るために、一緒に殺されてしまった。


 いや、侍女一人だけではすまなかった。

 ジョージと関係を持った事のある平民の女は全て殺された。

 流石に貴族令嬢は殺されなかったが、誰もが恐怖していた。

 特に身分の微妙な準貴族の令嬢が戦々恐々としていた。

 国王陛下の命令で、ジョージと浮気相手が殺されたのが、直ぐに社交界の噂になったからだ。


 だがこれは国王陛下の警告でもあった。

 ジョージとの事を一言でもしゃべれば、情け容赦なく殺すと言う警告だった。

 王女が可愛い国王陛下と言えども、ジョージの方が悪いと言うのは分かっていた。

 平民女なら簡単に殺せるが、貴族令嬢を殺すのは難しかった。


 しかし安心もしていた。

 ビクトリア王女から悪い男を引き離す事が出来たのだ。

 だがそれも、ビクトリア王女の惚れっぽさの為に台無しになっていまった。

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