第17話

「爺。

 どうすればいいと思いますか。

 このままでは、本当にローガン殿を婿に迎えなければいけなくなります。

 何とかお断りできないでしょうか」


「それは難しいと思われます。

 フィリップス公爵家の申し込みだけでも、断る事は至難の業でございます。

 しかも今回は、ヴラド大公殿下がわざわざ仲人を務めてくださるのです。

 断る事はほぼ不可能でございます」


「爺。

 爺は私の心を知っているのではありませんか。

 知っていてそのような事を言うのですか。

 私は……」


「それ以上申されてはいけません。

 余りに身分違いでございます。

 御嬢様には、スミス伯爵家の跡継ぎをお産み頂かねばなりません。

 そのお相手は、それなりの身分の方でなければ、跡継ぎ様が哀しい思いをなされることになります」


「そうね。

 そうなってしまうわね。

 跡継ぎを産むのが私の務めなのね。

 でも爺。

 父上様が跡継ぎを儲けてくれれば、私は好きにしていいのでしょう」


「確かにその通りではありますが、残念ながら今のご主人様は、その力がないと思われます」


「何とかならないの?

 今までのスミス伯爵家では無理でも、今はお金があるわ。

 跡継ぎに恵まれない家では、薬を使うと聞いています。

 いいお薬を手に入れることは出来ないかしら」


「それは可能かもしれません。

 手に入れられないか調べてみます。

 しかしながら、成功するとは限りません。

 この縁談を断る事も出来ません。

 それにローガン様なら、跡継ぎ様の父親としては、いい相手でございます」


「今になってそんな事を言うのね。

 確かに身分的にはいい相手かもしれなけれど、フィリップス公爵家は悪い噂が絶えないと、爺が言っていたではないの」


「確かに爺もそのように申しましたが、今回はヴラド大公殿下が仲人を務めてくださいます。

 フィリップス公爵家も無理は申せないでしょう。

 もし無理無体な事を申して来られても、仲人のヴラド大公殿下に間に入って頂くことが出来ます」


「それはそうだけれど。

 でもそうなったら、ローガン様と床を共にしなければいけなくなるのですよ」


「確かにその通りでございます。

 御嬢様には嫌な事でございましょうが、それも御子が出来るまででございます。

 御子が出来さえすれば、後は寝室を別にされてもようございます。

 それにその頃には、御主人様に御子が出来ているかもしれません」


「本当はそんな事思っていないのに、白々しく嘘をつくのね。

 爺の嘘は直ぐのわかるのよ」


「申し訳ございません。

 貴族の方で、御嬢様の御眼鏡にかなう方がおられるのなら、爺もこのような事は申しません。

 どのような手段を使おうと、その方に婿入りして頂きます。

 ですがその方はおられないのでしょう?」


「爺。

 先ほども申しましたが」


「それだけは駄目でございますぞ。

 それ以上申されると、カイは二度とスミス伯爵家に戻ってこれなくなりますぞ!」

 

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