第16話

「何の話をしているのかな。

 フィリップス公爵」


「これはこれは、ヴラド大公殿下。

 噂でスミス伯爵家のアリス嬢の事を聞きまして、いい縁談をお世話出来たらと考えまして」


「ほう。

 フィリップス公爵殿も縁談を考えていたのか。

 奇遇だな。

 余も考えていたのだよ」


「それはそれは。

 それでは我の話は差し出口でありましたか?」


「そうとも言えまい。

 余の勧める縁談よりも、フィリップス公爵の勧める縁談の方が良縁かもしれん。

 ちなみにフィリップス公爵は誰を勧める心算だったのだ」


 こうなる事を予期していたフィリップス公爵は、内心しめたと思った。

 その想いが顔に現れ、醜く嫌らしい表情になっていた。

 その表情に殺意すら覚えたヴラド大公だったが、その想いをぐっと飲みこんて、表面上は笑顔を浮かべていた。


「我が四男。

 ローガンを考えております。

 若輩者ではありますが、あれでも公爵家の直系です。

 スミス伯爵家に婿入りするのに不足はないと思っているのですが?」


「ほう。

 これは中々の良縁だな。

 四男とは言え公爵家の直系なら問題ないだろう。

 で、結納金はいくら収めるのだ」


「え?!

 結納金ですか?」


「そうだ。

 公爵家の四男とは言え、伯爵家を譲ってもらうんだ。

 スミス伯爵家の年収の十倍払うのが筋だろう。

 それとも公爵家なら払わずとも婿入りさせられると思ったのか?

 そんな常識外れな事はないよな!」


「ええ、当然でございます。

 結納金は用意していますとも。

 ええ、当然でございますとも」


「それはよかった。

 前回の不幸な婚約破棄の示談金を得たスミス伯爵家は、今では結構な年収を得ておる。

 同格の伯爵家程度では、とても結納金を用意できないと心配していたのだ。

 フィリップス公爵家が用意出来ると言うのなら万々歳だ」


「え?

 そんな。

 スミス伯爵家の年収がそんなに増えているのですか!?」


「余が仲介をして、色々と事業を立ち上げたのだ。

 それが全て当たって、莫大な利益を上げておるのだ。

 いや本当によかった。

 両家の婚約発表の舞踏会は、余が用意しようではないか。

 いや気にするな。

 スミス伯爵家とは縁があるのだ。

 この場でフィリップス公爵殿からも縁談の相談を受けたのだ。

 最後まで面倒を見させてもらいますぞ」


 フィリップス公爵は顔面蒼白だった。

 上手く縁談を結べたと思った。

 スミス伯爵が相手なら、結納金など払わなくて済むように、丸め込めると考えていた。

 それが無理でも、他に金を毟り取る方法も考えていた。

 だがそれが全部使えなくなった。


 何度招待しても、今まで一度も来なかったヴラド大公が舞踏会に来た。

 明らかにスミス伯爵家を助けるためだった。

 だからヴラド大公は一族の者が抑えるはずだった。

 だがそれは失敗に終わった。

 しかし自分の才覚でヴラド大公を出し抜き、結婚を認めさせられた思った矢先。


 ヴラド大公が結納金の事を言い出した。

 それも考えていた金額の百倍の大金だった。

 しかも仲人を務めると言い出したのだ。

 いまさら話を無かったことになど出来ない。

 それにローガンを婿入りさせられたら、後はスミス伯爵とアリスを殺してしまえばいい。


 殺す事さえできれば、スミス伯爵家の財産は、全てフィリップス公爵家のものだ。

 そう考えたフィリップス公爵、金策に奔走するのだった。

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