焼きそばパン大戦争

第二十四話 昼休憩

　最初の不安も問題なく作業は進み、あっという間に昼休みとなった。岡田に二階のバックヤードにある社員食堂を案内され、そこで食券を渡された。Ａセット、Ｂセットとあるようで和食と洋食という選択肢があった。

　メールには食券云々について書いてなかったので、ちょっとしたサプライズだったのだが和美は昼御飯を持参してたので素直に喜べなかった。若干の迷いもありながら他の三人が食券を受け取っていたので和美も食券を受けとることにした。

　Ａセットと食券を交換して受けとる。焼き魚とひじきと味噌汁のセット。

「こういうとこってさ、特に書いてないんだけど指定席みたいのあるから気を付けてね」

　那間良がＢセットを持ちながら顎で空いてる席を差す。食堂の入り口に近く窓際のテーブルが四席空いていた。

「あーあ、そういうの確かにあるね。役職系の席とかお局系の席とか怖いんだよねー」

　井野戸がヘラヘラと笑い頷く。選んだのはＢセットのようだ。派遣あるあるなのかと頷きながら和美はあとをついていく。

「最近の噂からすると充分気を付けないとな、目をつけられたら厄介だ」

　席に座り柳原が辺りを見回す。隣のテーブルに座るのはエプロン姿の男性グループだった。

　エル・プラーザでは、男性社員はスーツ姿で女性社員は指定の制服、アルバイトはロゴの入った紺のエプロンを着用している。共通として胸に名札を付けていて、腕にそれぞれのカラーリングがされた腕章を付けている。アルバイトはエプロンと同じ紺色だ。

「ここら辺は多分だけどアルバイト席だと思うから。大体ほら厨房から遠い場所がアルバイト席ってのが相場」

　移動距離の話になるようで厨房から近い場所が役職系やお局系の席らしい。トレーや食器の返却もあるので、周りの配慮なのだろう。そこから順に、序列的に他の社員が席を取っていって厨房から一番遠い食堂の入り口付近がアルバイトの席となるようだ。

　那間良の説明を受けながら四人は食事に手をつけ始めた。

「その･･････噂って何ですか？」

「ん、ああ。んー、ここで話にくいことなんだけど、下手に口走っちゃったな。気になるかい？」

　向かいの席から問いかける和美に対して柳原はＡセットの焼き魚を綺麗に食べながら困ったという表情を隠さずに向ける。訊いてくれるな、と暗に言ってるのはわかるのだけど和美の今日の本分に関わってきそうなので和美は頷き返した。

「噂って、ここ結構怒鳴られたりするとかってヤツっすか？」

　井野戸が声を抑えめにしながら柳原に訊く。不意の横からの質問に柳原はため息を吐きながら頷いた。

「社員さんに聞かれたら面倒だからあんまりこんなとこで話したくないんだけど、確かにそういう噂があるし、それを理由にここのバイト、キャンセルするヤツが多いんだ」

「あ、私、キャンセルが出たってことで入りました」

「私も」

「あれ、オレもなんだけど、うわ、マジで？」

　和美に那間良と井野戸が続き、驚きに顔を見合わせる。柳原はその三人の様にまたため息をついた。

「実は俺もだ」

　ため息混じりに柳原そう言って、食事を再開した。もしかしたら偶然四人別々の理由でキャンセルを出したのかもしれないし、四人グループで受けといてキャンセルを出したのかもしれない。そんないくつかの可能性を考えながらも、噂の信憑性についてもっと深く調べなければと和美は思った。

　それから誰もその話題には触れず黙々と食事が進んだ。周りからは騒々しいぐらいの話し声が聞こえていたが、四人は気不味いくらいの沈黙で食事を進める。

「なんか空気悪くない？」

　ふと気づくと柳原の後ろに岡田が立っていた。和美と那間良は顔を上げる形に、柳原と井野戸は振り向く形になった。

「いや、その、初対面なんでね、話続かなかったんですよ」

「あー、あるよねー、難しいね、俺も苦手。あ、柳原さん、あの昼から俺、売場に呼ばれちゃってさぁ。朝の段取り通りでよろしくぅ」

　岡田ののんびりした軽いノリに柳原は困惑しながら頷いた。

「あ、それと、昼からは別部署から社員が来るんでよろしくぅ」

　岡田はそう言って柳原の返事も待たず、他の社員達の方へ歩いていった。

「噂はともかく、なかなか面倒な現場だよ」

　柳原はため息をつきながら岡田の背中を見送った。

「今日十七時まででしょ。あと四時間頑張りますか」

　那間良の言葉に和美は食堂の壁掛け時計に目をやると、昼休憩の終わり十三時まで残り十分となっていたので残りの食事を慌てて片付けることにした。五分前行動を厳守と事務所で説明されたのを思い出した。