第62話

「余がゲラン王国との国境に行こう。

 側近達がついて来てくれるから、デュランとビリーを動かせる。

 デュランをマイヤーに派遣して、ビリーにホワイト領を任せる」


 父王陛下が不退転の決意を示して下さいました。

 陛下が国境線を固めて下さったら、ゲラン王国も迂闊に動けなくなります。

 その間にハンザをホワイト王国に戻す事が可能です。

 ですが心配もあります。

 陛下の心の病です。

 治ったばかりの心の病が、ゲラン王国との開戦という重圧で、再発するかもしれないのです。


 ですが今は信じるしかありません。

 父上陛下に助けてもらえれば、アーサーと私、それにハンザも生き延びる事ができるかもしれません。

 いえ、幸せな家庭を築く事ができるかもしえないのです。

 ここは陛下の底力を信じます。


 陛下は親衛隊と近衛騎士団と近衛徒歩団を率いて国境に赴いてくれました。

 密貿易は中断することになりましたが、ハンザの命には代えられません。

 デュランが大将軍直属の部隊を、ビリーが労働者を改変した工作戦闘団を率いてホワイト領に移動しました。

 その時の送られてきた情報では、ゲラン王国がマイヤー王国に大攻勢をかけているということでした。


 幸運だったとしか言いようがありません。

 ゲラン王国は、我が国とドレイク王国の結びつきが強くなったことに、大きな危機感をもったのでしょう。

 我が国が背後を不安に思うことなく、ゲラン王国に侵攻する可能性を考慮して、早期にマイヤー王国を攻めとる決断をしていたようです。


 ですがマイヤー王国が必死に国境線を護って戦ったので、予定通りに侵攻できなかったようです。

 私に入っている情報の範囲では、国境守備の主将はメイソンで、副将がハンザでしたが、獅子奮迅の活躍をしてくれたのでしょう。


 父王陛下が直属軍率いて国境の城に入ってしばらくして、マイヤー王国に攻め込んでいたゲラン王国侵攻軍の半数が、多くの負傷兵を連れて王都に戻ったそうです。

 密貿易の再開を望むゲラン王国の売国奴が、色々と情報を伝えてくれるそうです。

 全部を鵜呑みにするわけにはいきませんが、八割九割の情報は真実でしょう。

 問題は真実に混ぜ込まれた謀略情報です。


「トビアス、ミルドレッド王国は大山脈を越えて襲撃することはないのですか?」


「残念ながら補給が続きません。

 全力侵攻をするには間道が狭すぎて補給が追いつかないのです。

 それと中途半端な戦力投入は、戦力の逐次投入となり悪手です。

 ミルドレッド王国の参戦は期待しない方がよいと思われます」


 トビアスは役に立ちませんね。

 ホワイト王家よりもミルドレッド王家に忠誠を誓っているのかもしれません。



 

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