第61話メイソン視点

 ゲラン王国の猛攻は今までの比ではない。

 不退転決意だと言えるほど、損害を無視した攻撃を繰り返す。

 開戦後少しずつ増築新築した出城出丸はとうに放棄した。

 開戦時に主城だったところも奪われた。

 今は開戦時からの予備城に籠って堅守を心掛けているが、限界がある。

 せめて、一時的にでもゲラン王国も鋭鋒を弱らせないといけない。


「ハンザ殿。

 以前の話ですが、命懸けで汚名返上しませんか?」


「はい、任せてください。

 どれほど危険な役目でも、成功して生きて帰ってきます」


「では、秘密の抜け道を使って敵の後方を突いてもらいます。

 昔からある抜け道で、本城を撤退した後で後方の城に籠りつつ、本城に入った敵を袋の鼠にするための切り札です。

 敵の大将を討ち取り、壊滅させるための道でした。

 ですが今回は別の作戦に使ってもらいます」


「どう言う事ですか?」


「今回は戦力差が大きすぎます。

 敵の後方に回っても、大将を探し出して確実に討つのは難しいでしょう。

 そこで敵の本拠を奇襲してもらいたいのです」


「ゲラン王国の王都を落とせと言われるのですか?!」


「落とす必要はありません。

 奇襲して放火してもらえればいいのです。

 ゲラン王国の王都が焼き払われたと知れば、先の戦いで大損害を被ったズダレフ王国が脱落するかもしれません。

 ホワイト王国が開戦して攻め込んでくれるかもしれません。

 何より正面から戦うよりも、こちらの損害が少なくて済みます。

 もし万が一ゲラン王国の王都が警戒していたとしても、ハンザ殿が遊撃して各地を襲ってくれれば、ゲラン王国軍は多くの兵力を裂いて分派しなければいけないでしょう」


「なるほど!

 それならば我々も全滅する事無く手柄を立てる事ができますね!」


 ハンザ殿が諸手をあげて賛成してくれます。

 本気で信じているようなら愚かですが、謀略と理解して上で演技してくれているのなら、なかなかの役者です。

 抜け穴など既に完全に封鎖しています。

 これだけ戦力差があったら、抜け道を奪われたら此方が滅びます。

 抜け道の争奪戦で負けるのは自明の理です。


 それよりは、抜け道があると間者に思わせて、ゲラン王国軍の首脳陣に伝えさせる方が、こちらに何の損害もなく有利になります。

 完全に信じてくれたら、抑えの兵を残して主力は後方に撤退してくれるでしょう。

 必死で抜け穴を探すはずです。

 王都守備のために軍の一部を撤退させてくれるかもしれません。

 地方守備のために、さらに軍を分派してくれれば御の字です。

 さて、どうなることでしょうか?

 

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