マイヤー王国奮戦

第42話メイソン視点

「殿下。

 部隊の配置が終りました」


「分かった。

 決してこちらから攻撃するな。

 開戦の口実を与えるんじゃないぞ」


「了解しました」


 まあ、何の意味もないでしょう。

 ゲラン王国とズダレフ王国は、難癖をつけでも開戦したいのです。

 恐らく、先にマイヤー王国から攻撃されたと、自作自演する事でしょう。

 私だって、追い込まれたらそれくらいの事はします。

 ゲラン王国も、領土が海に通じていれば、これほど無理はしなかったでしょう。

 絶壁山脈がなければ、強力な魔獣が住んでいなければ、海に辿り着けるのに。

 ズダレフ王国も同じです。

 領土に海があれば、それが全てです。

 我がベイリー王家も、直轄地に海があったら、あのような……


「土埃が舞っています!

 恐らくゲラン王国の騎馬隊です」


 さて、多少でも言い訳をしてくるでしょうか?

 それとも言い訳せずに、侵略だと断言するでしょうか?

 

「そこに布陣しているのはマイヤー王国の将か!」


 やれやれ、茶番に付き合わされるのですね。


「そうだ!

 ホワイト王国の王子で、ミスラ第五王女の婿となり、伯爵位を賜ったメイソン・ベイリー・ホワイトだ。

 貴君こそ何者だ!

 兵を率いて国境を侵すとは、我が国を侵略するのか!」


 ギョッとしているな。

 まあ当然の反応だろう。

 最前線にホワイト王国から送られた人質がいるとは、普通は思わないからな。

 それに、私はベイリーとホワイトの両方の姓を名乗った。

 その私を攻撃する事は、ベイリー家とホワイト家の両方と敵対する事になる。

 ホワイト家はゲラン王国の南に国境を接しているから、マイヤー王国と開戦するなら、背後から攻撃されたくない仮想敵国になる。

 ベイリー家はホワイト家に国を奪われた没落王家だが、それなりに長く国家として繁栄していたから、近隣諸国と血縁関係にある。

 どちらを考えても、ゲラン王国の現場指揮官クラスが、本国の承認もなしに勝手に攻撃できる相手ではない。


「侵略ではない!

 貴国の軍隊が、無道にも我が国に侵略して村を襲い、村人を皆殺しにして略奪を欲しい侭にしたのだ。

 我らはその理非を正すべく、仕方なく国境を越えた義軍だ。

 恥を知るならば、略奪に加担した将兵を引き渡せ」


「笑止!

 侵略の口実を作るために、自国の村民を皆殺しにして略奪したな!

 その所業、悪魔のごとし。

 国を安んじ民を守護すべき騎士として、軍将兵として、恥知らずにも程がある!

 天におわす神々、誇り高く戦い散っていった英霊が、全てを見ておられる。

 貴君には、神々が怒り、英霊が嘆き哀しいでいる姿が見えぬのか!」


 敵の指揮官が屈辱で真っ赤になっている。

 付き従う側近の大半は、痛い所を突かれたことをごまかそうと、真っ赤になって喚き散らしているが、少数だが、恥を知り真っ青になって顔を背ける者もいる。


「黙れ、黙れ、黙れ!

 侵略者を許すな!

 皆殺しにしろ!」

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