第33話

 しばらくためらっていたトマスが、意を決して話し出してくれました。


「あくまでも私見でございます。

 姫様や陛下に対して隔意も思惑もありません。

 そのこと、御理解の上で御聞き願いたいです」


「分かっています。

 国の命運を分ける岐路なのです。

 集められるだけの情報と、あらゆる視点による考えが必要なのです。

 最後の決断は、陛下がなされますから、責任を感じず、トマスの視点から見える事を話してください」


「承りました。

 臣から見えるのは、どちらに協力しても、あるいは協力しなくても、国が傾くという事です。

 ゲラン王国はズダレフ王国と同盟して、マイヤー王国に侵攻しようとしています。

 我が国がマイヤー王国に味方して、ゲラン王国を退けたとしても、我が国の国力と戦力は低下する事でしょう。

 それでなくても内紛で国力も戦力も低下しているのです。

 その隙を、ミルドレッド王国とドレイク王国が見過ごすはずがありません。

 一方ゲラン王国ですが、姫様は中立を貫くと申されましたが、今日の一件でそれはもう不可能です。

 あれほど敵対する言動をされたのですから、関係を改善するためには、縁を結んで同盟にまで持ち込むしかありません。

 ですが姫様が申された通り、ゲラン王国は信頼に値しません。

 ゲラン王国はマイヤー王国を併合したら、必ず我が国に攻めてきます。

 その時にはドレイク王国が攻め込んで来る可能性があります」


 本当に真摯に答えてくれました。

 そして私とほぼ同意見です。

 恐らくズダレフ王国とミルドレッド王国の動きも同意見でしょうが、確認はしておくべきでしょう。


「マイヤー王国を負かしたゲラン王国とズダレフ王国は、争う事なく同盟を続け、ズダレフ王国が山脈を越えてミルドレッド王国に攻め込むと考えているのですね」


「はい。

 ゲラン王国が新たに我が国と同盟を結び、共にマイヤー王国を併合したズダレフ王国との同盟を破棄するとは考えられません。

 マイヤー王国を敵としたゲラン王国とズダレフ王国の同盟は、三代の長きに渡っており、現王の正妃も王太子の正妃もズダレフ王国の王族だと聞いております。

 背中を預けて別の国に攻め込むと考えるしかありません。

 だからこそ、我が国との貿易であれほど露骨に条約を破れたのでしょう。

 最初から、少々高くても、戦争に必要な不足物資を手に入れられればよい、マイヤー王国の渡らないように出来ればよいと、割り切って考えていたのでしょう」


 全く私と同じ考えですね。

 だとすれば、どの国の誰と手を結べばいいと考えているのでしょうか?

 私と同意見なのでしょうか?

 ドレイク王国との関係もあるので、本心を語ってくれるかどうかは分かりませんが、聞いておかねばなりません。

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