第5話

 まず間違いなくマリー嬢は偽聖女です。

 ですが、万が一と言う事があります。

 マリー嬢が本物の聖女ならば、王太子の正妃となる資格はあるでしょう。

 ですが、人の婚約者を奪う権利はありません。

 それどころか、他人の婚約者を奪った時点で、聖女の資格はなくなります。


 ですが上手く立ち回らないと、聖女の権威で押し切られてしまいます。

 王太子が馬鹿なのは分かっています。

 問題はマリー嬢です。

 彼女が狡猾だったら、尻尾を掴ませないかもしれません。

 ここは馬鹿を責めるべきですね。


「それは、それは、お見それ致しました。

 教会が認定された聖女様でしたか。

 これまでの無礼お許しください。

 ただ確認しておきたいのですが、どこの教会のどなた様が聖女の認定をされたのですか?

 王太子殿下!?」


「なに?!

 余とマリーの言う事疑うのか!」


「いえ、疑う訳ではありません。

 ですが聖女様と言えば、神の恩寵を受けられ、聖なる魔法を駆使されるお方です。

 それを認定できる方は限られております。

 それをお聞かせ願えないと、ここにおられる皆様が納得されません!」


 聖女の問題となったら、私一人の事ではありません。

 王家の横暴も貴族家全ての問題ですが、聖女の問題も貴族家全ての問題です。

 きっと教会は、聖女を表に立てて寄付を強要するでしょう。

 それも今までとは比較にならない大金を強要するでしょう。


 貴族家の中には、没落寸前の家もあります。

 ギリギリで収支を保っている貴族家も多いのです。

 そこに聖女を理由に莫大の寄付を取り立てられたら、領民から不当に税を取り立てるか、悪事に走るしかなくなります。

 真っ当な教育を受けた貴族なら、そんな事はしたくないのです。


「そこまで言うのなら言ってやろう。

 枢機卿だ。

 枢機卿が直々に任命したのだ!

 分かったか」


「そうでしたか。

 では念のために、王家から直接確認の使者を出して頂き、確かめた後は貴族の方々にお披露目しなければなりませんね。

 お願いできますか。

 国王陛下」


「おお、分かった。

 おい、直ぐに使者を送れ。

 今直ぐだ!」


「は!」


 正式な使者です。

 騎士が送られるでしょう。

 これでここにいる王家の兵力を少し削る事ができました。

 これからどう話が展開するか分かりませんは、王家の兵は減らしておかないといけません。


「ほう。

 認めたか!

 マリーを聖女だと認め、婚約破棄を認めるのだな?」


「まずはマリー嬢が聖女であるかどうかを、枢機卿猊下に確認しなければなりません。

 そしてその認定を、枢機卿猊下が直々に認定され、教皇猊下が認めたのかを確かめねばなりません」


「たかだか公爵令嬢の分際で、王家に逆らったばかりか、聖女であるマリーを蔑ろにし、枢機卿どころか教皇殿まで疑うとは!

 不敬にも程かあるぞ!」


「それは当然でございます。

 聖女の正誤だけではすみません。

 枢機卿猊下と教皇猊下の威信だけでなく、教会の信用に係わる大問題ですから!」

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