第2話

「なに?!

 弟の分際で、王太子の兄に逆らうと言うのか!

 許さん。

 余が王位に就いたら、処刑してくれる!」


「なにをとち狂っているんですか?

 兄上にホワイト侯爵家を処罰できるはずないじゃないですか。

 それどころか、父王陛下だって処罰なんてできませんよ」


 第二王子のメイソン殿下が止めに入って下さいました。

 メイソン殿下の方が理知的で思慮深いです。

 なんとか国の大事を治めようとしておられるのでしょう。

 ですがもう手遅れです。

 一度口にした事は、なかった事にはできません。


「なにを言っている。

 王が家臣を処罰してどこが悪い。

 この女は主家である余に逆らったのだ。

 謀叛すると言ったのだ!」


「それは兄上が勝手に口走ったのでしょう。

 それにそもそも兄上が、アルフィン嬢の名誉を傷つけたんです。

 誇り高いホワイト侯爵家が報復するのは当然です。

 直ぐに父王陛下に事の子細を申し上げて、お詫びした方がいいですよ」


 メイソン殿下の申される通りです。

 今の王家にホワイト侯爵家を処罰する事などできません。

 できるほどの力があるなら、そもそも私と婚約を結ぶ必要などないのです。


「兄上は何を学ばれて来たのです。

 今の王家は、ホワイト侯爵家の支援なしでは成り立たないのです。

 そんな事も理解されていなかったのですか?

 しかも衆人の前で、これほどの恥をかかせたのです。

 手をついて謝っても、ただではすまされないかもしれませんよ」


「支援だと?

 それがどうした!

 家臣が主君に尽くすのは当然だ!

 逆らうと言うのなら、兵を送って占領すればいい。

 そうすれば王家の直轄領となり、支援などと言う、まどろっこしい方法は不要になる」


 馬鹿です。

 本当の馬鹿です。

 王家が欲得づくで貴族の領地を奪う。

 そんな事に力を貸す貴族はいません。

 一旦それを認めれば、次は自分が領地を奪われるかもしれないのです。


 しかも今回は、明らかに王家の方が悪いと、皆がこの場で見聞きしています。

 王太子に媚を売り、分け前をもらおうとする者以外は、一家の貴族家も味方しないでしょう。

 そして王太子に媚を売り味方した貴族は、貴族社会で爪弾きにされ、王家に知られないように、徐々に一族が殺されていくでしょう。


 王家は王権を拡大して、貴族を完全に支配下に置きたいのでしょう。

 ですが貴族達は、王家の横暴を許しません。

 自分達の領地と権利を守るために、一致団結するのです。

 今回の件は、完全に王家の横暴です。

 ほとんどの家がホワイト侯爵家に味方してくれるでしょう。


「そうです、王太子殿下。

 殿下が主君なのです。

 家臣に遠慮する必要はありません。

 殿下こそ正しいのです。

 殿下こそ神から王権を授かった王家の正当な後継者なのですから!」


 この娘は何者ですか?

 ホール子爵家は何を考えているのです?

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