第八話 メールを使う派
部屋を出たら、樹下母が居たのでご挨拶。
ちょうどお茶を持っていくところだったのよ。お構い無く、そろそろ失礼させてもらうところです。等と定番的な絡みをする。
友達の家なんかでもそうだけど、他人の親というのはどうも苦手だ。今のボクにとっては大事なお客様なので、苦手云々言ってられないんだけど。
「桜音己はなかなか変わってますが、悪い子ではないのでどうかよろしくお願いいたします」
親も認める変人娘。というフレーズが頭に浮かんだが、あまりにあまりだったので、口に出さないようにボクは頷いた。頷くにも躊躇う言葉の内容なんだが。
「で、では、また明日お伺いいたします」
ボクはそう言って、もう一度樹下母に会釈した。
「あ、先生。先生の連絡先教えて頂けますか?」
ん、先生って誰だ?
……ああ、ボクか。そういえば、ボクの連絡先を何にも明記して無かったっけ。
はい、と返事してボクは鞄の中からメモ用紙を取り出そうと鞄に手を突っ込んだ。しかし、ボクがメモ用紙を取り出すより早く樹下母は、ボクの目の前に携帯電話を差し出した。
「あ、赤外線でお願いします」
ボクより樹下母の方が、現代的だった。
樹下母と携帯電話で赤外線通信をした後、ボクはもう一度一礼してから樹下家をあとにした。
エレベーターの前に立ち、ため息をついた。
なんだか、ドタバタした初日だった。ちゃんと家庭教師出来てたのかな?
お互いの紹介と彼女の実力の程も知れたんだから、初日にしてはなかなか出来てるのかも。
ボクの時はどうだっただろうか?
……あの時の事は、ボクも緊張していてよく覚えていないな。多分、彼女の事だからボクよりはしっかりと家庭教師をしていたのだろう。じゃないと、今こうしてボクが家庭教師をやっているわけがないからな。
とにかく、ボクもしっかりと家庭教師を務めなければ。明日からは、もっとしっかりとした態度で樹下桜音己に対応しよう。
今日はなんだか、彼女のペースにやられてしまった感じが否めない。
それにしても、エレベーターが遅い。
「あの~」
うぉっ。突然、声がしてビックリした。
振り返ると見知らぬオバサンが立っていた。天然パーマに緑色のシャツ、カーキ色のスカートに薄く青白いエプロンをしている。
マンガに出てきそうな典型的なオバサンだ。
そのオバサンが、ボクに何の用だろう?
「ボタン押さないと、エレベーター上がってきませんよ」
マンガに出てきそうな典型的な、天然ボケだった。
何だかどーでもいい赤っ恥をかきながら、ボクはボタンを押してから直ぐに来たエレベーターに乗り込んだ。振り返ると、先程のオバサンがニヤついていたので直ぐに一階のボタンと閉のボタンを押してエレベーターのドアを閉めた。
ズボンのポケットに入れた携帯電話が震える。そういえば、一応マナーモードにしていたんだった。
振動が僅かだったからメールだろうか。携帯電話を取り出し、メールを確認する。
何だ、知らない宛先からだ。
from:nekohakonekohakone@××××××.ne.jp
sub:不幸な手紙
このメールを五人に転送しなければ、
貴方はイケメン☆パラダイスに行くことになるでしょう。
ただし、そのツラのままで。
……何だ、これ?
確かに、イケメンばかりの中にボクのような平凡な顔のヤツが行けば、あまりの造りの差に己を呪いたくもなるかもしれないが、こんな不幸な手紙があっていいのだろうか。
普通、もっと直接的に死んじゃうもんじゃないんだろうか。第一、不幸“の”手紙じゃなくて不幸“な”手紙だったら、渡された人間より手紙自体が不幸みたいじゃないか!
ん、この感じ。ついさっきまで感じてたようなツッコミ感。
なるほど、送り主は彼女か。
今思ったツッコミをそのまま送信してみる。
う゛ぅう゛ぅ、と携帯電話が振動する。
すぐに返信が来たようだ。
from:nekohakonekohakone@××××××.ne.jp
sub:むむむ。
なぜ、こんなにも早く私だとわかったんですか?
さては先生、ニュータイプですね!?
……もちろん、ボクはニュータイプでもないし、ニュータイプだったとしてもその能力をこんなバカなメール主を当てる為に使いたくはない。
それにしても、最近は女子高生でもニュータイプとか言い出すんだな。男の子の世界ってイメージがあるんだけどな、あのアニメ。
あ、でも彼女の部屋は男の部屋っぽかったしな。
こんなにも早く、と書いてるところからすると、さっきの不幸な手紙の第二弾、第三弾があったのだろうか?
なかなか迷惑な話だ。やはり、バカにされてるんだろうか? それとも、彼女なりのコミュニケーションか?
メールの内容まで変わってるとは。
さすが、親も認める変人娘。
樹下桜音己、だ。
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