ソレイユ・プロジェクト

賀田 希道

第一章 神聖なるは神なれど

第1話 プロローグ

 西暦2147年8月21年、人類はその日をさかいに、あらゆる面においてすべての社会問題を解決した。人口を減らしたり、大規模な軍事革命を行ったり、戦争をして一つの国として統合したり、金融革命が起こったり、新たなる資源惑星を見つけたり、人類全員が怪電波に洗脳されたりということなく、実に平和的に、そして唐突に人口過多、食糧問題、差別、金、ハラスメント、過去の遺恨、軍事拡張、思想、信仰、土地、資源、その他すべての問題が解決した。


 人類が新たなる開拓地フロンティアたる電子空間へとその歩を進めたから。すなわち、人間の電子化だ。


 画期的としか言いようがなかった。これまで人類が争ってきたすべての物事が解決するということもそうだし、さらに副産物として人類は理想たる自分自身を手に入れる結果となった。


 電子空間というのはそれほどに素晴らしいものだったのだ。そのためにもまずは電子空間とはどんなものなのかを語ろう。


 一言で語れば、動画サイトや画像サイト、アダルトサイト、ダークウェブとかみたいなサイバーフィールドのことだ。仮想空間のようなもの、と言われているが、新たなる開拓地である電子空間は一味ちがう。


 電子というのは光の速度で移動するため、基本的に電子空間の中で電子一つ一つになれば、時間の流れはないに等しい。アインシュタインの相対性理論を持ち出すまでもなく、まさに一秒が数千年、あるいは数万年に感じるかもしれない。


 オカルトに話を持っていくならば、5億年ボタンがいい例だろう。あれは意識下では5億年という途方もない年月が経っているが、しかし現実の肉体は一秒も時間が経っていない。


 電子空間内ではそれと同じような現象が起こる。唯一違うことがあるとすれば、それは肉体そのものを一度全部分解バラして電子空間内で再構成しているから、肉体と意識が一緒になっている、という点だろう。よって、電子空間内で時間が経てば、肉体も精神も老化する。


 ある意味においてこの一点が電子空間という開拓地のデメリットかもしれない。


 だが、それがどうした?人間はついに仮初でない、心の奥底で理想とした自分を手に入れたんだ、それでいいじゃないか、とオレは思う。


 生まれが別に特殊だったわけじゃない、オレという人間からすればまさしくこの電子空間は天国だ。特に、オレが住んでいる電子空間、ソレイユ・プロジェクトは全世界の夢を叶える場所と言ってもいい。


 ちゃちなヴァーチャルなんてものじゃない。モノホンの五感で広大なファンタジーワールドを体感できて、住んでいるNPC――ゲーム内では煬人――も中にテキストデータなんてない。ちゃんと自分で考えて発言して、行動する。本当の意味でリアルな世界!


 がんばれば王にだってなれるし、世界最強にだってなれる。そのうえ、現実世界には必要不可欠な存在だった法律、憲法、納税、公共福祉まで存在するときたものだ。


 ああ、一応言っておくけど、これはコンセプト不明のオンラインゲームだ。冒険しようぜだったり、国を作ろうだったり、ほのぼのライフを満喫しようだったり、なんだってかまわない。一応、『さぁ、自分の願いを叶えよう』とかいうキャッチコピーはあるがな。


 オレを含め、ソレイユに来た人間だけでも約百万人、ソレイユのNPC煬人は推定十億人。そのすべてが共通に意思をもって、暮らして、冒険して、国をつくって、あるいは殺し合って、思い思いの生き方をする。今更、None Electron現実世界 Worldになんて戻れないよ。


 これが、Electron World type of Open World Frotier、ソレイユ・プロジェクトだ。


 そして、 新しい世界の最先端スタートラインだ。


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