第7話

 オリヴィアが住んでいた村の人達は、恐怖に打ち震えた。

 彼らにも自分のやった事の自覚はある。 

 何の罪もない善良な家族を、散々利用した。

 冤罪だと分かっていて、わずかな畑と家を奪うために追い出した。

 奪った物は村の有力者で分けた。


 多くの者は教会に助けを求めた。

 中には噂を信じない平気な者もいた。

 教会も同じだった。

 自分達の権力を信じていた。

 誰であろうと、奈落の底から生きて戻れるとは思っていなかった。

 あの弱い元聖女など何も怖くなかった。


 だが、金儲けには熱心だった。

 頼って来た村人に、何の効力もない御札を高値で売り付けた。

 村人は、心の中では信じていないのに、御札に縋りついた。

 自分で自分を騙し、村人はようやく夜の闇に脅えなくなった。

 だがそんなモノはまやかしだった。


 本当なら村から逃げ出せばよかったのだ。

 だが、産まれてからずっと百姓だった者に、畑を捨てる決断など出来ない。

 同じ百姓から畑と家を奪っておきながら、自分達は執着した。

 だがそれが死期を早めた。

 逃げても地の果てまで追いかけられただろうが、わずかな時間は延命出来た。

 だが、今は死を待つだけの状態だった。


 オリヴィアの恨みは深かった。

 唯一の光だった、家族まで行方不明なのだ。

 その家族を奪った者を、簡単に殺しはしない。

 残虐な拷問方法は、身体の隅々に記憶として染み着いている。

 決して落ちる事のない怨念として。


 支配下にある魔獣に村の周囲を包囲させ、夜半に家に石を投げさせた。

 寝入り端に、ゴンゴンと、家に石が投げつけられるのだ。

 最初は同じ村人を疑った。

 自分を恨んでいる村人がやったのだと。

 誰もが何がしかの思い当たることがある。

 村のそこかしこで喧嘩が多発した。


 強い者が弱い者を殴り投石を自白させようとした。

 より強い者が強い者を殴り、同じように自白を強要した。

 より強い者同士が争い、傷だらけになった。

 だが、直ぐに分かった。

 同じ村の者の仕業ではないのだと。

 村人以外のモノの仕業だと。


 村人は心底恐怖した。

 日が落ちてからは誰も家から出なくなった。

 戸締りを厳重にして、家に閉じこもっていた。

 だが、安心など出来なかった。

 日が落ちてから日が昇るまで、ずっと投石が続くようになったのだ。

 時には誰かが戸を開けようとして、戸がガタガタと鳴るのだ。


 そんな日が幾日も続き、村人は寝不足でフラフラになった。

 いや、気の弱い者は半分狂いだした。

 それでも、誰も村から逃げ出そうとしなかった。

 逃げ出しても奴隷狩りに捕まると分かっていた。

 村を出ても生きていけない事が分かっていた。

 そんな彼らに、更なる恐怖が突き付けられた。

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