第11話 ダンジョン

 

 フータ、触手ちゃん、ビリアの三人は町近郊にあるダンジョンに来ている。

 ダンジョンとは言うものの、地下へ潜っていくタイプではなく、見た目はただの平原だ。ダンジョンの周囲は柵が作られ、入り口には『この先ダンジョン』と記載のある柵が立ててある。風に乗って、遠くの方から争う声や、金属が打ち鳴らす鈍い響きが時折聞こえてくる。

 ここまでやってくる途中、ビリアのおっぱい目当てな他の冒険者から話を聞くと、ダンジョンというのは、ダンジョン魔という魔物なのだそうだ。

 そいつらは、自分のテリトリーに多くのエサとなる生物を引き込もうと、美味しい木の実を実らせたり、テリトリー内で死んだ冒険者の装備を、宝箱に入れて設置したりするらしい。

 ほぼ正円状に展開されたダンジョンの大きさは半径で10km近くあり、かなり大規模。中心へ向かう程、良い物が多くなるが、それだけ強い敵が多くなるため、初心者ならば周囲から1km進んだ辺りで止めておくのが良いそうだ。それと、野営はダンジョン内ではベテラン以外お勧めしないとも教えてもらった。

 

「という訳で、我々はダンジョンにやってきたわけである」

「何が『という訳』よ。普通に売れば良いじゃない」

「はぁ……これだから脳みそまで筋肉なガキは困る」


 フータはやれやれ、と首を振った。


「今日までの数日間で出た装備はかなり良い物だ。もし俺が、良く漫画に出てくる転生者であったならば、現代知識チート! ウェーイ! とか言って頑張った事だろう」


 フータがここ数日の間に、ガチャから出したのは下記の物だった。


『SSR パソコン インターネットが見れる』

『SSR デジカメ デジタルなカメラ。写真が撮れる。USBケーブル付属』

『SR ゴミ袋 10枚入り。封をすると、回収してくれる』

『SR 段ボール 梱包に便利』


 パソコン、デジカメは言わずもがな。この異世界において、現代日本の情報が手に入るし、写真のアップロードまで出来る。とりあえず、テストがてらデジカメで動画を撮り、ユーチューブにビリアのオッパイぶるんぶるんを晒し、かなりの反響があった。

 SRのゴミ袋は適当に中に土を詰めて封をしたら、そのままどこかに消えてしまった。これも色々と役に立ちそうな代物だ。

 そしてSRの段ボール。これが当たり装備で、所謂、見た目以上に物が入る段ボールであった。

 大きさは60サイズくらいの、何の変哲もない段ボール。ここに物を入れようとすると、急激に持っていた物のサイズが小さくなる。抱える程の寝袋だったり、長いテントだったりが、ミニチュアサイズに早変わり。取り出す際は一つずつ手で摘まんで出せば、元のサイズに戻せる。段ボールをひっくり返すと、バラバラとミニチュアサイズの荷物が飛び出して、地面に落ちると元のサイズに戻る。とっても便利な段ボールだ。

 重量もミニチュアに準じた重さになるようで、持ち運びに支障はない。そして、意外にもこの段ボール、結構頑丈で、多少の力では潰れたりしない。そのため、今はビリアの背負ったリュックの中に蓋をして紐で縛って入れてある。中身は水や食料。テントや調理器具などの嵩張る品物だ。

 

「さて。頭の悪いビリアにも分かるよう説明してやろう」

「頭の悪いは余計よ!」

「良いか? こんな有力な装備を毎日毎日、ダンジョンにも行かない冒険者が売りに出していたらどう思う?」

「商人だと思う」


 フータはビリアの答えを聞き、はぁ、と再度ため息をつく。


「まぁ、それもあるかもな。だがな、それ以前に、いつもそんな珍しい物を持ってくる奴なら、怪しいって思わないか? なんでアイツはそんな良い物を毎回売りに来るんだ? どこで手に入れているんだ? 気になるだろ?」

「んー、そうかも」

「そこで、ダンジョンだ。ダンジョンに潜れば、そこから出土したアイテムっということで、ガチャ装備を売りに出しても、辻褄合わせが出来る。そのための、ダンジョン攻略だ」

「ふーん」


 あまり良く分かってい無さそうなビリアに、フータは説明することを止めた。

 ビリアは『考えるな。感じるんだ』タイプなのだろう。


「とにかく、適当にダンジョンを巡って、ダンジョン産の植物を採取をする。戦闘は触手ちゃんメイン。俺が魔剣で補助。ビリアは荷物持ち兼、敵が近づいてきたらその棍棒で叩け」

「おっさんよりはよっぽど強いから、言われなくても大丈夫よ!」


 そう言って、ビリアは棍棒を片手でブンブンと振り回す。

 この棍棒。フータには持ち上げられない程、重量がある。まさに鉄の塊と言っても良い代物だ。


「頼りにしてるよ」


 フータはそう呟き、さっそくダンジョンの敷地内へ足を踏み入れるのだった。

 

 ダンジョン内は、基本的にひざ丈程度の柔らかい草で一面覆われている。しかし、所々、きっちりと境界があり、植生が一変する場所があった。

 そういった場所に、ダンジョン産の品が豊富に実っていたり、生えていたりするのだ。


「適当に詰めていこう。段ボールに入れれば重さも関係ないし」


 リンゴやみかん、スイカの形をした謎の木の実を摘み取っては段ボールに入れていく。その間、近づいてくる犬っぽい魔物や、イノシシっぽい魔物は、触手ちゃんとビリアによって悉く討伐されていった。

 その最中、触手ちゃんとビリアの体がフワフワ、と光に包まれる。


「んぁ……なんか変な感じがした」

『キュッ』


 光は直に収まったが、ビリアと触手ちゃんは妙な感覚を感じたようで、手の平を握ったり開いたり、ぴょんぴょんとジャンプしたりしている。

 ビリアのオッパイがバルンバルン、とジャンプした。

 

「違和感は? 体の具合がおかしいとかはあるか?」

「んー、なんだろう。少し調子が良い様な、変な感じ」

「痛かったりはしないんだな」

「うん」


 フータは少し考え、異常が無いならば問題はないか? と思いつつも、今日はこの辺りで切り上げる事にした。


「えー! 来たばっかりじゃん! もっと奥へ行こうよ」

「死にたけりゃどうぞご自由に。荷物は置いて行けよ」

「……おっさんが魔剣持ってたら、行けるわけないじゃん。離れられないんだし」

「だな。トイレも近くで見ててやるよ」

「変態しね!!」


 フータも排泄シーンを見せられて興奮する性質ではないので無いので、言ってから後悔した。これでは「変態しね」と言われ損である。

 これがグラマラスな大人のおねー様ならご褒美なのに……。


 ビリアは棍棒を超スピードで振り回し、棍棒に張り付いた血を遠心力で振り飛ばす。

 触手ちゃんはビリアのリュックからタオルを引っ張り出し、自分の体をごしごし擦りつけて綺麗にしてから、フータの頭の上に戻ってきた。

 こうして大量のダンジョン産果物と、少しばかりの薬草を採取したフータたちはギルドに戻ってくる。

 フータ達を担当したギルド職員は、今日出立したばかりで戻ってきた彼らに、少し驚いた。


「あれ? 今回は泊まりで行かれたはずでは?」

「ダンジョンで魔物を狩ったら、体が光に包まれる不思議現象に遭遇してな、違和感を覚えたから帰ってきた。まぁ、果物は取れたから収支がマイナスにはなってないはずだ」

「ああ。フータさん達はダンジョン初めてですよね。それはレベルアップですよ」

「レベルアップ??」


 ギルドでフータ達を受け持つ受付のお姉さん、クリャフはくすり、と笑う。

 クリャフはビリアと似た、少しばかり尖った耳を持ち、エメラルド色の髪と瞳を持っている。所謂、エルフと呼ばれる種族であった。

 なんでも、エルフ族から人間の社会に派遣されている研修生だとか。ここ数日、彼女から依頼を受けているうちに、話をして知ったことだ。


 フータはクリャフが言ったレベルアップという言葉に反応する。


「それは、文字通りレベルアップ?」

「レベルが上がる。生物としての存在価値の高まり。色々ありますが、総じて良い事です。力が強くなったり、動けるようになったり、今まで感じ取れなかったことを感じ取れたり出来る様になりますね」

「……そうか」


 フータの認識と同じ、ステータス値の上昇という考えで当たっているようだ。つまり、今回のダンジョン探索で、ビリアと触手ちゃんはレベルが一つ上がったのだろう。


「それはダンジョンで魔物を倒すと上がるのか?」

「それが多いですよ。でも、商人たちが物を売り買いしていて上がることもありますし、炭鉱夫が鉱山を掘っていて上がることもあります。釣りをしたり、洗濯をしていて上がることもありますから、その条件は千差万別。良く分からないけれど、神様からの祝福だと捉えられていますね」

「ふーん」


 様々な動作によって経験値が貯まり、レベルが上がる、という事だろうか。

 どちらにしても、ダンジョンで魔物退治すれば、レベルを上げる事が出来るのは間違いなさそうだ。


 フータは明日からの目標に『レベルアップ』を掲げた。

 せめて、ビリアに腕相撲でボコボコにされた雪辱を晴らせるくらいにはなりたい。

 

「それでは、買い取りしましょうか?」

「ああ。頼む」


 フータは事前に段ボールから取り出して、元のサイズに戻しておいたダンジョン産の果物をいくつか納品し、日当程度の資金を得るのだった。


 そして宿に帰ると、同じようにダンジョン産の果物を、宿屋の看板娘テルシアちゃんにプレゼントし、彼女のご機嫌を取っておく。残りは、主に触手ちゃんのご飯として、綺麗さっぱり食された。

 

「ダンジョン産の果物、美味しいわね」

「だな。収穫してると魔物に襲われるから、それさえ無ければもっと大量に出回るんだろうなー」

「ふーん、良く分かんない」


 ビリアはそういった経済の仕組みには全く興味無さそうに、シャクシャクと果物を頬張っている。

 そんな様子を見ながら、フータは今日手に入れた日当を思い出す。

 二人と一匹。宿屋暮らし。

 今日の日当ではとても足りない金額だが、それでもガチャ産の装備が時々良い値で売れれば、十分にやっていける額だった。

 危険も無いし、安全で快適。

 口うるさいオッパイのデカいガキが付きまとうが、道中のお喋り相手にはちょうど良い。

 

 これが異世界スローライフか。悪くないな。

 

 フータはリンゴの見た目をしたリンゴ味の果物を咀嚼しながら、そう思うのだった。


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