第28話 盗賊団討伐作戦 ~リオ①~

 私は今、騎士と呼ばれる方々と、『エルム街道』を通って『セルデン』という町を目指しています。

 セルデンはソル王国から東へ、馬という獣に乗って一日ほど走った場所にあるようです。

 自身で走れば半日も掛からないのですが、今回はその馬という獣に乗って行くようです。この馬と言う獣は、肉が引き締まっていて、とても美味な気がするのですが、基本的に食用では無いそうです。…残念です。


 話を戻します。

 今、私達が通っているエルム街道も商人が度々、盗賊とやらに襲われているそうで、騎士の方々は既に警戒しているご様子です。

『気配察知』を使っても、辺りに気配は無いようですが…。


 しばらく進むと、倒れてる荷馬車を発見しました。

 近付いて見てみると、男性の人間が数人、血を流して倒れています。

 繋がれていた馬もおらず、積んでいたであろう、中の荷物もありませんでした。


「くそ、やられているな。」


 騎士の方がそう呟きました。

 どうやら襲われた後だったようです。

 一応、倒れている者は、一人を除いて全員武装しているようですが、剣も鎧もまるで玩具に見えます。この装備に意味はあるのでしょうか。


 ―この世界に住まう者は皆、脆弱ですね。


 私がそう思ったのは、外へ出てから危険を感じる事が無かったためです。警戒したのは、せいぜいリトラくらいでしょうか。あのミユという方も注意はしていますが、やはり相手にはならないように思います。

 人間も魔物もせいぜいがLv50程。高い者で80から100程と言ったところでしょうか。これではすぐに死んでしまうのも、仕方のない事でしょう。


 その後、騎士の方が少し死体を調べてみましたが、大した手掛かりも無かったようで、先を急ぐ事になりました。


 またしばらく進むと、ちょうどいい川辺を見つけたので、そこで休息を取るようです。

 私はお腹が空いたので、ショウ様から頂いた干し肉と、騎士の方から頂いたパンとスープを食す事にしました。


 外の世界へ来て唯一、私が楽しみにしている時間です。この身体になってから味覚も備わりました。美味な物を食したり、お腹が満たされた時の幸福感はなんとも言えない物があります。


 私がパンをスープに浸して食べようとすると、複数の気配を感じました。

 とても脆弱な気配ですが、敵意も感じ取れるので皆様に一応報告致しましょう。


「皆様、敵襲です。」


 私がそう言うと、騎士の方々は一斉に剣を構えます。私はお腹が空いていましたので、そのまま食事を続けました。


 現れたのはゴブリンと呼ばれる小さい人型の魔物が七体、ポイズンウルフと呼ばれる獣型の魔物が五体でした。

 ゴブリンは大した技能もなく、戦いを覚えたばかりの者が相手をするような惰弱だじゃくな魔物だそうです。

 ただ、ポイズンウルフの方は名前のとおり毒を持っており、噛まれたり、引っ掛かれたりすると毒に侵されるそうです。また血や肉にも毒があるため、食用にもなりません。

 私からすれば、どちらも存在に価値が無いように思いますが。


「皆の者!かかれ!」


 この部隊を仕切る、分隊長と呼ばれる方が合図を出しました。すると騎士の方々は盾を持った者が壁を作り、後方から弓で攻撃を仕掛けます。盾で相手を足止め、時間稼ぎをし、後方から落ち着いて狙撃。これはなかなか理にかなっているように思えます。


 ゴブリンに矢が命中し、次々と倒れていきます。

 しかし、ポイズンウルフは素早くそれを避けます。獣型なだけあって、素早いようですね。


 ポイズンウルフは盾を持った者達に近付き、襲いかかります。しかし、他の者が背後から剣や槍で突き、ポイズンウルフを仕留めました。他のポイズンウルフも同様の方法で仕留めていきます。所詮は獣ということですね。


 ―そろそろ終わりそうですね。スープの染み込んだこのパン、とても美味しいです。


「リオ殿!危ない!」


 スープに浸ったパンの味を噛み締めていると、分隊長様が何やら叫んでいるご様子。何事かと見てみると、一体のポイズンウルフが盾の壁を抜けて、私に襲いかかってきました。


 ―…食事中は遠慮して頂きたいものです。


 私はそう思いながらも、スープを一口啜り、ポイズンウルフが飛び掛かってくる瞬間に槍を突き出して、串刺しにしました。


「食事の最中です。行儀が悪いですよ。」


 私は串刺しになったポイズンウルフにそう言って、槍から振り落としました。

 再びスープを飲もうと顔を近づけると、スープの中に赤黒い斑点が浮かんでいました。

 そう、ポイズンウルフを突いた時の返り血が、スープに入ってしまっていたのです。


 ――――!!!??


 まるで雷に打たれたような衝撃が走りました。

 せっかく味わいながら少しずつ飲んでいたのに。一瞬にして台無しになってしまいました。


「リオ殿、大丈夫ですか?」


 分隊長様が私を気遣い、声を掛けて下さったのですが、私の耳には入りませんでした。私は沸々と身体の奥から沸き上がる感情を押し殺し、ポイズンウルフの死体を睨み付けます。


「…リ、リオ殿…?」


 分隊長様は私の異変に気付いたようで、困惑していたご様子でした。

 私はスープの入ったカップをゆっくり地面に置き、分隊長様を押し退けて、ポイズンウルフの死体に近づきました。


「…許せません…。『全てを突き穿つ槍』ゲイボルグ!!」


 私は既に死に絶えているポイズンウルフに向かって、技を放ちました。数十メートル先まで地面が大きく抉れ、爆風が起きます。その衝撃で、ポイズンウルフの死体は粉微塵となり、私の視界から消えて無くなりました。

 死に絶えているとはいえ、姿形がこの世に留まっている事が許せなかったのです。



「…な…?!」


 騎士の皆様は驚かれたようで、口を開いたまま動かなくなってしまわれました。


 私には毒耐性があるので、飲めなくもないのですが、やはり自ら毒を啜る気にはなれません。

 なので新しい物を頂けないか、お願いをしてみる事にしました。


「分隊長様、スープのおかわりを頂けないでしょうか。」


「…え?あ…あぁ。わかりました。」


 どうやらおかわりを頂けるようですね。良かったです。


 私は再びスープを頂き、満足してこの日を終えました。




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