◀︎▶︎17プレイ
「はい! ども、クレーンゲームを愛するカミタツとー」
「ゲームと聞けば反応するスートンの」
「「クレーンゲームを挑戦する動画を始めたいと思います」」
「さて、今回紹介していくクレーンゲームをする前に皆さんに報告です。今回、今話題のクレーンゲームの全国大会に出場することになりました。地区の大会には優勝することができましたので、この調子で優勝目指して頑張っていきますので応援よろしくお願いします☆」
後日、僕たちはYouTubeの動画上で状況報告した。そして、視聴者の皆さんに優勝を目指すことを宣言することで逃げ道をなくした。こうすることで前に進むことができるので緊張も少しは解れる。
全国大会の開始は地区大会の日から二週間後となっていたので、しばしの休息を設けられたが、僕たちはこれまでのように動画を撮影しながらクレーンゲームをする日々を過ごしていた。ちなみに場所は日本の首都、東京である。交通費等は主催者側が負担してくれるようなので問題ないが、別の問題が僕たちに大きく負担を与えていた。それは地区大会の優勝が決まった時に遡る。
「ちょっと! この二人とチームを組むってどういうことよ?」
柊祐奈は真っ先に瀬古に噛み付いた。
「はい。説明致しますね。全国大会では東京で行われます。代表である北海道地方、東北地方、関東地方、中部地方、近畿地方、中国地方、四国地方、九州地方の各代表三人、計二十四人で優勝争いをしてもらいます。その為にはまず各地方でチームを組んでもらい、二チームまでに絞ります。そして、残りの六人になりましたら個人戦に写り、優勝を目指してもらいます。ここまでよろしいでしょうか?」
「え? せっかくペアとして参加したのに個人戦になるんですか?」
僕は疑問をぶつけた。
「はい。最後だけはそのような形になります。しかし、ペアの一人が敗退したとしても賞金は山分けにできますのでご了承下さい」
「ちょっと、私はどうなるのよ。賞金は?」
「柊様に至っては優勝した暁には独占できます。しかし、敗退したら一切出ませんので」
「そんな……」
柊祐奈は複雑な表情を浮かべる。
「でも、それはそうとしてこいつらとチームを組むのは納得いかないわ。チーム変更を希望します!」
柊祐奈は僕たちに指を差しながら否定的に言う。差された僕たちは遠い目で見守る。
「それは困りましたね。では、大会辞退と見てよろしいですか?」
「よろしくないわよ!」
「これは決まりなのです。地方代表としてここはチームを組んでもらわないと困ります。それに私もYouTubeを拝見しましたが、神谷様、鈴木様はかなりの実力があると見て取れました。こんな凄い見方が付くのですから損はないと思いますが?」
「実力はあっても生理的に嫌って言っているのよ」
「優勝したくないのですか?」
「うぅ……」
瀬古の押しに柊祐奈は最終的にはチームとして組むことを納得した。
「では、二週間後、全国大会頑張って下さい」
と、瀬古はこの場を丸めた。嫌々ではあるが、僕と神谷、それに柊祐奈を迎えてチームを組むことになった。
「ゆうちゃん! チームを組んだ記念にご飯でも食べない? 良い食材があるからさ」
神谷は片手に持っていた伊勢海老を見せつけた。
「…………知り合いに海鮮の店を出しているところがあるの」
柊祐奈は遠まわしに行ってくれることを承諾した。目の前の伊勢海老に負けたのだろう。この子、実は単純なのかもしれないと僕は思った。
「いらっしゃーい……あ、ゆうちゃん。久しぶり」
「うん」
僕と神谷は柊祐奈に連れられ、彼女の知り合いがやっているという海鮮の店に訪れた。和風の雰囲気が漂っており、いかにも高級店といった感じである。僕たちのような庶民が来るような店ではないのは間違いなかった。
「ゆうちゃん。髪染めた? それと後ろの二人はお友達?」
店主の堅いの良いおじさんは彼女と僕たちを交互に見比べる。
「うん。友達ではないわ。ご飯奢ってくれるみたいだから連れてきただけ」
友達ということを否定され、おまけに何故か奢ることになっている状況に「え?」声を漏らす。
「なによ! YouTubeで稼いでいるんでしょ? これくらいの店なら余裕でしょ?」
「いや、稼いでいるって言ってもそんな荒稼ぎしているわけじゃないよ。二人で山分けだし」
僕はそのように否定をするが、彼女には分かってくれそうになかった。神谷とコンビを組んでからというもの、僅かではあるが収入が入ってきている。約束通り、僕と神谷は収入を山分けにしている。今の僕はそれが唯一の収入源であるから無駄使いは避けている。ちなみに動画撮影の為の経費は全て神谷の負担で補っている。例えばクレーンゲームをプレイする為のお金とかがそうである。
「おっちゃん! 伊勢海老あるんだ! さばいてくれる?」
神谷は勝手に席について店主に伊勢海老が入った袋を見せつける。
「おお! これは上等な伊勢海老じゃないか。待っていな。すぐにさばいてやる」
店主は伊勢海老の入った袋を持って厨房に消えていった。
「ここはどういう知り合いの店なの?」
席について僕は質問した。
「父の兄貴の店。地元では有名店よ」
「へー。そうなんだ」
「ところで、ゆうちゃんは普段、仕事はなにしている訳?」
神谷は軽いノリで質問する。
「……あんたに関係ないでしょ」と、柊祐奈は素っ気なく返す。やはりサバサバは抜けず、僕たちのことは警戒したままである。
「でも、せっかくチームを組むことになったんだし、自己紹介くらいはしてもいいかと……」
僕は間に入って申し訳なさそうに割り込む。
「じゃ、逆にあなたたちは普段なにしているのよ。まさかYouTuberが本業というわけではないわよね?」
柊祐奈の返しに僕は固まる。神谷はクレーンゲームで取った景品をネットオークションで売る商売であり、職業とは言い難い。それに僕に至っては無職だ。情けなくて答えるのが恥ずかしい。
「えっと、その……」
「会社には勤めていない。個人で経営している」
僕は言葉に迷っていると神谷が横から答えた。
「経営ってなによ?」
「景品をネットで売る商売!」
「ふーん」
神谷の答えに柊祐奈はつまらなさそうにそっぽ向く。僕たちは苦笑いでごまかすも、柊祐奈はゴミを見るような目で睨む。
「お待たせ!」
店主はテーブルに伊勢海老のフルコースを並べた。おまけに海鮮の盛り合わせが次々と並べられる。まさに海の幸のてんこ盛りだ。
「美味そう!」
「すげぇー」
一言、僕たちはただただ驚く。生まれてこのような豪華な品揃えは見たことがない。究極の贅沢である。
「召し上がれ! それとビールはどうだい?」
「頂きます。三つで良かったかな?」
僕は二人に確認して注文した。
「はいよ。すぐ持ってくるよ」
店主は満面の笑みで去っていく。ビールが三つ運ばれ、僕たちは乾杯する。
「では、地区大会優勝を祝いまして乾杯!」
神谷が乾杯を仕切り、グラスとグラスを交じ合わせる。
「うまい!」
「うん。これはいける」
僕たちは夢中でテーブルに並べられた海鮮の品を食べ進める。
「あなたたちはどういう知り合いな訳?」
柊祐奈はさり気なく質問する。僕たちは顔を見合わせて答える。
「なんだっけ? ……あ、そうそう、聞いてよ!」
酒が入った僕たちはこれまでの神谷との経緯を彼女に語った。なぜこのような状況になったのかわからないがこうしてコンビを組んだ事情を話して彼女は興味深そうに聞く。その間は彼女の警戒心は解かれ、僕たちに笑顔を見せ始めたのだ。少しずつではあるが、心は開きつつあった。
「あはは! 鈴木はとんだ災難だね。神谷が全部巻き込んだんじゃん」
柊祐奈は僕の不幸を餌に笑うが悪い気はしなかった。今思えば笑い話として持っていけるからだ。
「へー。ゲームを作るプログラマーになりたいんだ。その夢はまだ健在中?」
「うん。僕を受け入れてくれる企業があればすぐにでも入りたいよ」
「うーん。確かにゲーム顔はしているけど、会社として入るには覇気が足りないね」
「覇気? 覇王色の?」
ゲーム顔とはどんなものはよくわからないが、見た目からしてゲームをしてそうな顔というところだろうか?
「海賊漫画の方じゃなくて普通に生気と言えばいいのかしら? 『僕はこの会社にどうしても入りたいんです』っていう雰囲気が足りないのよ。きっと。面接しても、こいつ弱そうとかしか思わないもの」
彼女にそのように思われていたことを知り、僕は軽く凹むが初めて知る事実に思い知らされた。僕がいくつもの会社に面接に行ったが期待に沿う答えはもらえなかった。来るのはお祈り通知のみでバイトしか通らない人柄だったのでいいことを言われた気がした。そういう意味では彼女の毒舌に感謝しなければならない。
「神谷はYouTuberとして天下取りたいっていうのが夢な訳?」
「おう! 有名人になって大儲け! やりたいことしながら豪遊するのが夢だ。理想的だろ?」
今でも大分やりたいことやって遊んでいると思うが、本人はまだできていない様子である。これ以上何を望むというのだろうか? 地位? 金?
「ふーん。馬鹿ね」
柊祐奈は軽くあしらう。確かに彼女のいうように馬鹿丸出しの夢だ。小学生が言う夢ならまだわかるが二十五歳になった良い大人が出す夢とは到底思えない。少しは現実を見てほしいものだが、なんとか政経を立てているのだから不思議である。これも一つの才能なのか?
「私より年上で馬鹿げた夢があるのはちょっと引くけど、嫌いではないわ。愉快で鼻を鳴らしたくなるわね」
「それって見下しているってことだよね?」
「そういうこと」
柊祐奈は神谷を見下した。
「鈴木! あんたにとってYouTuberは何?」
「えっと……」
柊祐奈の質問に僕は口を閉ざす。僕にとってYouTuberとはなんなのか、その答えは、今は出なかった。今は何もわからないけど、いつか答えが出るかもしれないとそう思ったのだ。
「ワイたちのことは全部話したんや。自分だけ話さないのはずるいぞ」
神谷はぶーぶーと効果音を口で言って煽る。
「仕方ないわね。なら特別に話してあげる。私の職業は――キャバ嬢よ」
「え?」
「え?」
僕たちは聞き間違いかと思った。
「キャバ嬢よ」
聞き間違いではなかった。こんな子がキャバ嬢? 全然そのようには見えない。毒は吐くけど見た目は真面目なのにキャバ嬢なのか。と、僕はそのギャップに驚く。
「だったらどうする?」
柊祐奈は自分で言っといて質問する。私、何歳に見える? とか聞き返されるアレである。その真意は僕にはわからない。
「まぁ、っていうのは嘘だけど、この髪の色を見ればまともな仕事をしているようには見えないでしょ」
と、柊祐奈な綺麗に染め上げた金髪をなびかせて反応を伺った。
「…………」
柊祐奈の小悪魔ぶりに僕らは踊らされる。完全に彼女のペースに持ってかれたのだ。
「今は言えないけど、普通に働いていたらダメなの」
「それはなぜ?」
神谷は聞く。
「父が借金を作って夜逃げしたの。その借金は全部私に押し付けられて借金取りから追われる生活。今はお金が必要なの。その為には普通に働いていても足りない。あなたみたいにただ豪遊して楽しく生きたいとはわけが違うわ」
彼女の事情を知り、神谷は小さくなる。自分の立場と比べたら情けなく思ったのだろう。
「その借金はどうやって増えたの? いくらくらいあるの?」
僕は聞くのは失礼と思ったが聞かずにはいられなかった。
「……まぁ、会社を立ち上げようとしたけどうまくいかずに破産したって感じね。そうね。総合では一千五百万円くらいあったけど一千万円は返済済みよ」
二十四歳という若さで既に一千万円を返済したということに僕は驚きを隠せなかった。一体どういう稼ぎ方をして返済したというのだろうか。確かに普通に稼いでも返せる金額ではない。余程のことをしない限り、返済は不可能である。
「今回、クレーンゲームの優勝賞金は百万円で返済するには少ないけど、少しでも足しになればと思ったわけよ。だから絶対優勝したいの」
柊祐奈は自分の目的ははっきりさせて意気込みを言う。クレーンゲームの頂点になりたいというより賞金だけがほしいようである。その発言には神谷も反応を見せる。
「ゆうちゃんの思いはよくわかった。でも、クレーンゲームの神の達人としてそこは譲れないな。優勝はワイがもらう」
「最後の優勝争い楽しみね。あぁ、後、神か達人かどっちかにしなさいよね」
柊祐奈もやはり僕と同じ突っ込みを入れてみせた。
テーブル上の海の幸はいつの間にかなくなっており、そろそろ退席の時間が近づいた頃だった。
「ご馳走様、伊勢海老美味しかったわ」
柊祐奈は上着を羽織って帰る準備を始める。
「すいません。お会計お願いします」
神谷がそう言って伝票を見て絶句した。何事かと思い、僕は伝票を横から覗く。
「え……?」
僕は伝票に記された金額に目を疑った。三人で八万四千円という合計金額に0が一個多いのではないかと再度確認をするも数字が変わることはなかった。そういえば、こそこそと柊祐奈は何やら裏で注文していたのを思い出す。それが積もりに積もった結果なのだろう。
「ごち!」
柊祐奈は可愛らしく舌を出すもその姿は小悪魔そのものだった。
「…………」
「…………」
僕と神谷は顔を見合わせて店主にお願いし、すぐに戻ると伝えてコンビニのATMにダッシュで向かって行った。
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