◀︎▶︎13プレイ

突如、耳に入った「クレーンゲームの全国大会」のお知らせ。

 クレーンゲームの動画の数々を上げてきている僕たちにとっては無視できないイベントの一つであった。クレーンゲームあるとこに僕たちがいると言ってもいいほど興味深いものである。ネットで調べるとどうやら公式で大会が行なわれているらしい。第五回と書かれていたので最近から始まったようである。それにしても優勝賞金が百万とはBIGイベントにも程がある。参加するためには二人一組と単独参加が条件のほかに、参加費用が一人一万円なので割と高い。百万円の為にもそこは仕方がないと思う。全国大会に出る為にはまず地区大会で優勝しなければならない。地区大会では決められた店舗に出向き、そこでの課題でクリアしたものが次のコマに進めるというもの。受付はギリギリだったらしく、僕と神谷のコンビは参加することには成功した。開催日は受付をした日から二週間後に県内の中心の地である場所の店舗で予選が行われる。僕と神谷は当日、開始時間に合わせて最寄りの駅に待ち合わせをしていた。僕が約束の十分前に来たら既に神谷は僕を待ち構えていた。

「おう、来たか! 待っていたぞ」

「早いね。いつからいたの?」

「十五分前に着いた」

「気合入りすぎでしょ」

「当たり前だ。今日はワイの凄さを披露でできる最初のステージなんだからな。ビデオカメラも忘れずに持ってきた。あ、これ鈴木が預かっていてくれ。武士の刀みたいなものだから無くすなよ」

「武士が刀を預けたらダメだろ……」

 そんな突っ込みを入れながら僕たちは目的地までの切符を買う。電車に乗るなり、神谷は座席でイビキをかきながら寝る姿を不愉快な視線を送りながらなんとか目的地までたどり着く。

「ん~よく寝た!」

 神谷は両手を大きく上げて伸びをする。

「ずっと寝ていたね。夜寝てないの?」

「寝たよ。四時くらいに」

「……あ、そう」

 ゲームに熱中していたのだと僕は悟った。僕は休みの日でも(無職だからいつでも休みだけど)夜はしっかりと寝るように規則正しい生活は怠割らない。昼と夜が逆転してしまったら、それこそが無職の極みになりそうで怖いからだ。だから僕は遅くとも日付が変わる前にはベッドに入るように心掛けている。それに比べ、神谷は無職真っ先な生活を送り気味なので喝を入れたいところだが僕に言われる筋合いがないと思われるのがオチなので何も言わない。

「さて、予選会場はどこかな?」

 神谷は僕より先に歩みだしてキョロキョロする。

「こっち、こっち」

 僕は逆方向に向かった神谷を呼び止めて正確な方向を教えてあげる。そんなこんなでなんとか会場にたどり着いた僕と神谷はこれから始まる戦いにメラメラと闘争心を燃やすのであった。

「ここが会場か」と、神谷が言う。

 場所は都内の中心にあるゲームセンターであり、店の外には『クレーンゲーム全国大会予選会場』と看板が立て掛けられていた。この日はなんと大会の為に店は貸し切りとなっていた。つまり、店内には大会の参加者が勢ぞろいというわけである。早速、会場に入ると受付のお姉さんにお出迎えされた。

「いらっしゃいませ。大会の参加者ですね? 早速ですが、招待状の方を拝見させて頂きます」

 招待状というのはネットで参加申し込みをした後、参加費を振り込むことにより、後日、自宅に郵送されるものであり、そこに今回の大会の場所や日時が記されたものである。注意事項もいくつか書かれていたが僕は全てを把握していない。会場に着いて尚も参加費1万円の高さに疑問を感じるわけだが、それなりの価値が果たしてあるのか期待と不安が入り混じっている。ひとまず、僕と神谷はお姉さんに言われた通り、招待状を見せる。

「はい、神谷様、鈴木様のコンビですね。確かに拝見させていただきました。注意事項は読みましたか?」

 お姉さんに言われ、僕はドキリとして「いいえ」と目を逸らすように言った。

「それでは説明させて頂きます。まず、予選ではブロックに分かれて制限時間二十分以内により多く景品が取れた数を競って頂きます。景品に応じてそれぞれ点数があります。点数は一~十まであって簡単なものであれば一点で難しいものであれば十点と景品によって変わってきます。二人の合計でそのチームの点数になります。そして、各ブロックの上位で最後の予選を行います。それに勝てた二チームが全国大会の切符を手に入れることができます。ここまでで質問はありますか?」

「えっと、その最後の予選というのはどのようなことをするのでしょうか?」

 僕は真っ先に聞いた。

「はい。それは各ブロックに勝ってからのお楽しみです。それではこちらを引いてください」

 と、お姉さんは穴の開いた箱を出してきた。

「これは?」

「ブロックを決める為のくじ引きです。AからDまでの記号が書かれていますので一枚引いてください」

 お姉さんにそう言われた僕は箱の中に手を突っ込み、中から一枚の紙を引く。

「はい、Cブロックですね。三番目の順番になりますので時間になりましたら会場に待機していてください。それと集合時間になりましたら会場で開会の言葉がありますので向かってくださいね。具体的な説明があります」

「わかりました」

「それでは幸運を祈っています。頑張って下さいね」

 お姉さんに送られ、僕たちは会場である店内に足を踏み入れた。中に入ると既に他の参加者らしき人物が店内に散乱していた。場は和やかな雰囲気になっており、楽しそうに会話をしていて緊張感は感じられなかった。本当にここで大会が行なわれるのかと疑問に思うほどだ。

「へーなんかパーティーでも始まりそうだな」

 神谷は引きが抜けたようなことを言うが、まさにその通りだと僕も感じる。

「いろんな人がいるね。学生から年配の人まで幅広い」と、僕は思った事を口にする。

「お! あの子超可愛い! すげぇ好み!」

 神谷が見た人は金髪に染めた女の子で歳は二十といったところだろうか、顔立ちは整っており、ギャルというか清楚で真面目そうな印象がある。まるで真面目な子が無理矢理金髪に染めたような反抗意識に見受けられる。パッと見て可愛いので好みと言えば僕も同じである。神谷と好みが被ってしまったことがいけ好かない。

 すると、神谷の舐めまわすような熱い視線を感じたのか、金髪少女は振り向き、こちらに近づいてきた。

「あなたたちも参加者……よね?」

 金髪少女にそう尋ねられた神谷と僕は同時に頷く。

「まぁ、ここにいるということはそういうことよね。どこのブロックかしら?」

「えっと、Cですけど」

 僕が答えると金髪少女は僕たちを観察するように見ながら言う。

「そ、ところであなたたちどこかで私と会ったことないかしら?」

 僕たちは顔を見合わせながら首を横に振る。

「ん~! あ、もしかしてあなたたち、最近YouTuberとして活動している人でしょ? カミタツ……だっけ?」

「そうです。僕たちのこと見てくれたんだ!」

 僕は視聴者がいたことに感激した。

「君は知らないけど、カミタツはあなたのことよね?」

 金髪少女は神谷に話しかける。どうやら僕には眼中にないようだ。

「そうです。見てくれてありがとう」

「いますぐ辞めてくれる? 不愉快」

「え?」

「え?」

 金髪少女はファンかと思っていた矢先、あっさりと否定されてしまい、僕たちは不抜けたように声を漏らす。金髪少女は言いたいことは言ってやったと言わんばかりに僕たちから離れて行ってしまった。

「……なんだ。今の。感じ悪くない?」と僕。

「でも、可愛かったから許す」

「えー……」

 神谷は金髪少女の可愛さであれば何を言われても受け流せてしまうようだ。僕は変わった人もいるのだという認識でいた。僕らをよく思っていない視聴者の人は中にはいるとは思っていたけれど、あのように面と向かって言われたのは初めてだったので反応に困ってしまった。むしろ、嫌なら嫌と言ってくれた方が清々しいのだけれど、一方的過ぎる発言であったため納得いかないところの方が大きい。僕のことに関して触れてはいなかったとは言え、同じ活動をしている者として神谷と同じく胸に矢が突き刺さるような痛みを感じていた。いや、神谷は同じ矢は矢でも恋のキューピットから食らった方の矢である。神谷はあの子に一目惚れの様子。自分本人が嫌われているという認識はないのだろうか。

「会場にお集まりの皆々様! 中央の方へお集まりください!」

 突如、会場の中心にマイクを持ったサングラスをかけた特徴のある声をした男が参加者を呼んだ。もしかしたらあれが司会者なのだろうか。

「は~い! 集まりましたね! それでは私、クレーン瀬古が大会について説明致しますのでよろしくお願いします!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る