◀︎▶︎4プレイ

「申し送れた。ワイの名前は神谷(かみや)達人(たつひと)。二十五歳。よろしく」

 疫病神は店の席に着くなり自己紹介をした。この時、初めて疫病神の本名を知った。一人称が『ワイ』ってなんだがオタクみたいだが、実際ゲームオタクなんだからネットの用語を使っているのだろう。直接聞くと痛々しく思えるから止めてほしいものだ。それと二十五歳と言えば僕より二歳年上ということになる。良い大人が二十五歳にもなって平日の昼間にゲーセンで何遊んでいると強く思う。神谷はやはり働いていないのだろうか。そんな疑問を浮かべながら僕も自己紹介をした。

「えっと、僕の名前は鈴木裕斗です。二十三歳です。よろしくお願いします」

「あぁ、そんな堅苦しくならなくていいよ。気軽に行こうや。あ、すいません! 牛丼の大盛り卵セットで! 鈴木は決まった?」

「牛丼並盛に味噌汁を付けて下さい」

 そういって店員は伝票に書き込んで厨房に立ち去る。牛丼だけに五分もしないうちに頼んだものがテーブルに運び込まれた。

「いただきます」

 神谷は律儀に両手を合わせて掻き込むように牛丼を食べ始めた。

「ところで鈴木! 平日の昼間だっていうのになんでゲーセンなんかにいたの? 仕事は?」

 それはこっちのセリフだ! と、強く思いながら僕の箸は止まる。それに食べるか喋るかどっちかにしてほしいものだ。しかも初めてまともに喋った割にはなんだが親しすぎないかとも思う。

「今はとある理由で就活中です。別に暇だから遊びに来ているわけではありません。これも立派な就活の一種ですので」

「ふーん。つまり無職ってことね」

 カッチーンと僕は血の気が引くような怒りが込み上げた。確かに無職と言われればそのとおりではある。僕は今、職場を失った訳であってその為に次なる職場をこうして探している訳だ。しかも、その原因が神谷のせいであるから本人にそんなことを言われてしまったら最後である。いかにも喧嘩を売っているような発言である。知らずに言っているのであれば許せるが、神谷は本当に僕のことが誰だか知らない様子であるから不思議だ。

「そ、そうゆう君だってどうなんだ! 僕と同様、平日の昼間にゲーセンにいるじゃないか! 暇なのかい?」

 僕は少し興奮気味で言った。

「ワイか? ワイはもちろん働いている。そのへんのリーマンよりも貰っているぞ」

 神谷はまさかの働いている発言をした。そんなバカな! と僕は目を疑う。毎日住んでいるのかというほどゲームセンターに来ているということはどこで収入を得ているのか疑問だった。それもリーマンよりも稼いでいるというのだから尚更である。もしかしたらただの強がりで嘘を付いただけかもしれない。そんなにも僕と同類に見られるのが嫌なのだろうか。この際、同類の無職にしてくれてもいいと思うのだが……。

「へ、へー。なんの仕事をしているのかな? ん?」と、僕は神谷を煽るように質問する。

「そういえば鈴木はどれくらいゲームが好きなんだ? おすすめある?」

 誤魔化させた―! まるで僕のセリフが聞こえなかったかのように自然にスルーされた。誤魔化したのが答えということでいいのか? 言えないようなことということは、本当は働いていないニートと解釈しても良いのだろうか。働いているなんてただの強がりと解釈しても良いのだろうか。

「子供の頃からゲームであればなんでも好きです。玩具、カード、テレビゲームとありとあらゆるゲームは好きですよ。今でも好き過ぎて家ではゲーム三昧です。おすすめと言えばそうですね……とか……とかですね。それから……」

 と、僕はとりあえず全力で神谷の質問に答える。

「それやっているんだ。じゃ、この裏ワザ知っているか? レアアイテムを簡単に入手することができる方法が……」

ゲームの話になればいくらでも出てくる。周りにゲームで話題が広がる友人はいないため、同じゲーム好きの神谷には話しやすいのはなぜだろうか。神谷も神谷で馬が合うのか、次々と僕の話に乗ってくれている。しかも、僕以上にゲームの知識が豊富で逆に教えられる形になり、勉強になってしまった。想像以上に神谷はゲームオタクの度を越えていた。牛丼屋で話が盛り上がったところで神谷は切り出した。

「お前、面白い奴だな! センスがあるよ。決めた! 鈴木! お前ワイとコンビ組んでくれよ」

「コンビ? ……って、なんの?」

「ワイの仕事のパートナーになってくれよ。安心せい、分け前はちゃんと半分出すからさ」

 僕は訳も分からず首を傾げる。コンビ、パートナーという単語から想像するにもしかしてお笑い芸人のコンビを組むということなのだろうか? 

「あの、神谷の仕事って一体……」

「そんなに気になるなら付いて来な! 教えてやる。その代わりお勘定よろしく」

 そう言って神谷は席を立った。僕は神谷の職業の謎を掴むべく、付いて行くことにした。教える代わりにここの勘定を払えと冗談交じりに言うがここは僕が受け持った。

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