ラストバトルよ、もう一度。

あきのななぐさ

プロローグ

魔王討伐の報告

 魔王の討伐に成功した――。


 その報告を受けたものの、国王はにわかには信じられないようだった。


「――妖精よ、確かに魔王は滅んだのだな? あの勇者が滅ぼしたのだな?」

「そうだよ? ワタシ、そう言ったよね? 王様は頭だけでなく、耳まで悪くなったの? うそうそ、じょーだんだよ! 冗談! まあ、色々と言いたいのはわかるよ? でも、話せば長くなるし……。『とりあえず魔王をやっつけたよ!』って事で!」


 そんな無礼な言い方をされても、国王は無言で思案に暮れる。ただその目は、仁王立ちする大男に注がれていた。


 ――凱旋とは言い難い状況。国王はそう思っているのだろう。


 しかし、妖精は嘘の報告はできない。まるで自ら認めさせるように、国王はその言葉を口にした。


「そうか――。とにかく、魔王は滅んだのだな――」

「王様もしつこいね? それより、もう帰ってもいい?」


「――ん? ああ、そうだな。妖精よ、ご苦労だった。感謝を――、妖精女王に伝えてほしい。『魔王は滅んだ、感謝する』と」


 ようやく国王の口から出た魔王滅亡の宣言。まったく威厳がないにも関わらず、それは歓喜の波紋となって広がっていく。


 荘厳な雰囲気が消し飛ぶ謁見の間。それを染め上げる歓喜の色。


「じゃあ、あとは狂戦士の話を聞いてね!」

「――⁉ 狂戦士から聞けと?」


 王の言葉に、謁見の間は瞬時に静けさを取り戻す。

 だが、それもすぐに塗り替えられる。地の底から湧き出たようなその声で。

 

「――まて。今、何と? いや、その者は話す事が出来たのか?」


 とっさのことで、ようやくその一言を発した国王。

 混乱しているのだろう、発した大男ではなく、妖精に答えを求めていた。


「んー。まあ、色々あったんだよね……」

 うつむき、悲しげな雰囲気を漂わせた妖精。そのあと上げたその瞳は、どこか遠い所を見つめている。


 一瞬、その雰囲気にのまれた国王。だが、それが妖精の演技であると見抜いた王は、怒りをあらわに立ち上がる。


「そこを報告するのが使命であろう!」

「ワタシに聞かないでよ! もうこの人たちと関わるの嫌なの! それにさっき『この後のことは知らないよ』って言ったよね!」


 激怒する王と反論する妖精。そのやり取りを、再びあの声が遮っていた。


「だから! とにかくあの魔術師と同じ事のできる魔術師を見つけて連れて来て! 若くて綺麗なお嬢様も一緒に! 早く! 一刻も早くだからね! そうしないと、魔王を滅ぼした力で世界を滅ぼすからね!」

 

 渦巻く違和感の嵐の中、それだけを告げて踵を返す狂戦士。


 その瞬間、狂戦士の体を覆っていたマントがひらりと舞う。だが、狂戦士はそれを慌てて隠す。


 ――まるで、乙女が恥じらうように――。


 騒めきと共に、さらに吹き荒れる違和感の嵐。だが、狂戦士の威圧により、無言の帳がのしかかる。


「これって、新しい魔王の誕生? でも、恥じらう魔王って新鮮かな?」


 肩をすくめた妖精に、王の怒声が降り注ぐ。


「その羽を全てむしり取られたくなければ、何があったのか報告しろ! 最初から全てだ!」

「えー⁉ ワタシ『後のことは知らない』って言ったよー?」


 妖精の不満の声を国王の憤怒の声が塗り替えようとした瞬間、虚空からまばゆい光と共に、勇ましい声が響いていた。


「よろしい! では妖精に代わって、この私が教えよう!」

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