第2話

「よお、皇」

名字だけが立派な私。

顔は平凡で学校の成績の平凡。もちろん運動神経も平凡。

そんな女子高生に育った私を構ってくれるのは、唯一の幼馴染の塩生君。

しおう、と読むと彼に教わった。お互い難解な名字同士という事もあって、私たちは自然と仲良くなっていった。

恋心は無い。

塩生も私も、友情こそあれ、恋愛には疎い。塩生は三次元より二次元の方が萌えると言っていたけど、果たしてどこまでが本当なのか。

私は生まれつき人を愛する本能が備わっていない。アセクシャルというらしい。私が恋愛にあまりにも興味がなさすぎるのを心配した母親がこっそり精神科に連れて行って発覚した。

これは病気。

母が開口一番に言った言葉。病気だから隠して生きなければならない。結婚相手も用意するから、高校生になったら処女を捨てなさいと言われている。

それを塩生に言ったら、俺が貰ってやると言ったので、遠慮なくあげた。SEXは気持ちいいと言う女子が多い中、私は吐き気を堪えながらした。塩生は塩生でなんでこれで勃起するの?と不思議そうに自身を見つめていた。

塩生もアセクシャルじゃない?と言ったら、そうかもと返事。彼も恋愛には興味が無い。顔だけは一流なのに勿体ない。AV男優になろうかな、なんて嘘か本当か分からない夢を抱いている。

私は人形作家になるのが夢だ。

無機質な表情をした人形に生気を吹き込む。それはまるで神様になったみたいな気分。だから私の部屋は人形で溢れている。そしてそれを母は咎めない。人形を愛していてもいずれは母の用意した男と結婚する運命だ。今のうちに趣味を持たせておこうというのが母の判断だろう。

「皇さ、男の人形作れる?」

「作れるけど……なんで?」

ある日の帰り道。

塩生が突然言ってきた。それは呼吸のように自然すぎて、私が聞き逃しかけたほどだ。

「俺を作って欲しいの。出来る?」

「良いけど……なんで?」

「部屋に飾りたいから」

どこまでが本当で、どこまでが偽りなのか。

塩生の事は長い付き合いでも掴めない。とりあえず了承して、私と塩生は分かれた。


その日の夜。

塩生から顔写真が送られてきた。眠っている写真。誰に撮らせたのか分からないけど、眠っている塩生は人形のように生気が無い。文面には『この顔を作って』とだけあった。勿体ない。こんなに生気に欠けた存在を人形にするなんて。

そう思いながらも私は彫刻刀を手にする。塩生の人形。一体、誰得なのかは知らないけど、趣味は良いと思った。

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