Scene:7「出会い」
赤く染まりだした太陽がどこまでも広がる砂漠を熱していく。
肌を焼くような強烈な熱が疲れのとれきれてない身体を
頭はぼーっとするのに眠れない。揺蕩う意識は眠りへと向かおうとしているのに熱の刺激がそれを妨げているからだ。
とはいえ、この地で暮らして一年近く。既にこの気候に慣れた意識はその気になればそんな刺激を無視する事もできる。
それをシュウが了承しないのはただ単純に今が休みの時間ではないからだ。
揺れる身体。聞こえるエンジン音。現在、シュウの身体は車両の中にあった。
理由は単純、ストラへ帰還している最中だからだ。
ベリルの襲撃部隊を撃退し後始末と引き継ぎを終えた後、一同はフォルンへと帰投した。
帰ってみると事前に連絡が飛んでいたのだろう。夜遅い時間にも関わらず住民達が総出でシュウ達を出迎えた。
その顔には喜びの表情。
それも当然だろう。当面の危機が去ったのだ。不安の種が消えた以上、後はもう明るい話しかない。
そして、その功労者が誰なのか知ったのなら、自然とその人物達に感謝の念も向くというもの。
後は言わずもがな。帰った直後のシュウ達は何度も住民達に感謝の言葉を送られる事となったのだった。
その事自体はシュウも他の者達もありがたいと思っている。ただ、戦闘で疲れた身体は無意識的に休憩を欲しており、正直な所さっさと寝たいというのが彼ら全員の偽りざる本音だった。
けれども、その疲れのせいもあって上手い切り抜け方が思いつかない。
結局、町長がやってきて強制的に切り上げるまで一同はこの騒ぎに付き合う事となってしまったのだった。
そうして床について翌日――
彼らは町長の屋敷にて情報交換を始めたのだった。
そこでわかったのは捕虜から聞き出したベリルの現状。
強盗や都市内の製品を修復売買でどうにか食料をやりくりしていたベリルだったが、どうやらそれも限界がきていたらしい。
修復できる製品の枯渇、各勢力の強盗対策レベルの上昇による成功率の低下。徐々にだが手に入れれる食料の量が減ってきていたのだ。
事態を重く見たベリルの上層部は前々から構想していたストラやフォルンの占領計画の実行を決断。必勝を期すためベリルが保有する異能者を全員を投入する事が決定された。
混乱を避けるため食料の減少の情報は住民には秘匿され、作戦に参加する兵士も全容を知る者は一部のみ。
結局、参加兵達が全容を知ったのは作戦開始直前だったという話だ。
開始前に全容を話したのは兵達に決死の覚悟をさせるためだろう。
危機に貧したベリルを救えるのは自分達のみ。そう思わせる事で彼らの士気向上を狙ったのだ。
『なるほど。と、なると作戦が失敗したベリルの今後は――』
『十中八九悪い方向へと傾く事になるでしょうね』
単純に失敗だけではない。多くの兵士。保有していた希少な異能者も失ったのだ。
強盗で生活を支えていたベリルにとって戦力の喪失は稼業の収益に大きく影響与える要素である。
食料を得るどころか、将来の糧すら大きく失った勢力。
当然、これらの事を住民が知ればパニックを起こす事になるのは必然だ。
だが、オルクス達が問題にしているのはその先――
『お偉方の交代で済めばいいのだが……』
『期待薄でしょう。ベリルが自力で食料を手に入れられないのは住民も知っている事実です。上が変わった所で打開できる戦力がないのではベリルの滅びは避けようがありません』
そうなれば住民達に残る選択肢はベリルの地を捨てる以外に残されていない。
住み慣れた地を離れ、食料もない流浪の人々。追い詰められた彼らがやがて盗賊となるのは想像に難くない。
つまる所、オルクス達が真に恐れているのはそういう事態なのだ。
一つの勢力の崩壊は巡り巡って周囲に様々な影響を及ぼす。今回でいえば悪影響だ。
『どの道、我々に崩壊を止める術はない。永遠と食料を供給し続ける訳にもいかんからな』
『……そうですね』
部隊長の言葉にオルクスが歯がゆそうな表情で応じていたのをシュウは覚えている。
彼にしてみれば他勢力とはいえ誰かが不幸になっていくのを見過ごすのが悔しいのだろう。
後は捕らえた捕虜の以降の方針や念の為、ベリルの方に偵察部隊を派遣させた事、そして最後に協力してくれた事への礼を聞いて情報交換は終了。
シュウ達ストラから派遣された部隊は帰還する事となった。
彼らが車両に乗ってフォルンから出ていった時には既に昼過ぎ。ストラに着くのは日が沈むかどうかの時間になるだろう。
それまではこの暑さと付き合っていかなければならない。
水筒を取り出して水を飲む。
断熱素材のおかげで冷えたままの水は気を引き締めるのにはいい刺激だ。おかげで意識が戻ってきた。
窓の外に目をやると見慣れた砂漠が水平線まで続いている。
照りつける太陽と揺らめく景色。ある種の自然の厳しさが眼前に広がっている訳だが、見慣れた者にとっては特に感じ入ることもない風景だ。
また、水を一口含みながらシュウがそんな車外の光景を眺めている時だ。
ふと、彼の視界が何かを捕らえた。
最初に引っ掛かったのは何らかの感覚。
その正体がわからず、数秒悩んだ結果、その正体が既視感だとわかった。
では、何故既視感を得たのか? 今度はそこに辿り着き視線を先程引っ掛かった場所へと向け直す。
すると、そこには何かがあった。自然物ではない。恐らく人工物。だが、目を凝らしてもよく見えない。
それに焦れてシュウは味方に双眼鏡を要求。仲間から渡されるとすぐさまその場所へとそれを向けた。
何かの正体はすぐに判明した。車両だ。それもただの車両ではない。一年前に乗った事のある車両。即ちシュウを買い取った仲介業者の車両だ。
双眼鏡の中のかの車両は停止しており、さらに周囲には複数の武装された車両が取り囲んでいる。
仲介業者の車両の左右のドアの付近にはそれぞれ遺体が一人づつ。まず間違いなく強盗だろう。
「正面から左に強盗を発見。どうやら奴隷の仲介業者を襲っているようです」
すぐさまシュウは仲間に強盗の存在を報告。彼の一報を受け、仲間達はすぐさま対応に動き出す。
「強盗の数はわかるか?」
「砂山が邪魔で難しいですね。ただ取り囲んでいる武装車両が三台ほど見えるので数は結構いると思われます」
普通に考えて一人に一台なんていう贅沢な使い方をしている事はないだろうから一台辺りに最低二人と考えても六人はいる計算になる。
こちらは現在四人。数の上では心許ない。
「どうしますか?」
「――様子を見る。車両を砂山の影に隠せ。後は徒歩で接近だ」
「「「了解」」」
部隊長の命令にシュウを含む三人が返事。
そうして車両が砂山の影で停車すると四人は車両を降り、そのまま砂山の影伝いに強盗達の元へと近づいていった。
その間、強盗達の方に目新しい動きはなし。後部のドアが開いているところを見ると、荷台の中を物色中なのかもしれない。
奴隷の仲介業者の積荷となると、やはり真っ先に思い浮かぶのはシュウと同様の異能者の少年少女。それが強盗達の手に渡るのはできれば避けたい所だが、かといって勝てない戦いはするものではない。
先の部隊長の判断はそういう思考からきている。
実際、シュウもそれは理解できている。ただ、彼自身としては強盗達の壊滅の方に判断が傾いていた。
勝算があるとかという理屈的な話ではない。ただ、あそこに自身と同じ境遇の者がいるかもしれないという興味とそんな子が危ない目にあっているのなら助けたいという同類に対する情が彼の思考をそういう風に駆り立てるのだ。
とはいえ、仲間を危険に巻き込むわけにはいかないという理性が上手くそれを抑え込んでいる。
いずれにしても情報収集。それで対応できそうなら対応し、無理そうなら可能な限り情報を集め、後日対応する。それが現在の方針の全容だった。
やがて、シュウ達は異能の範囲内に強盗達を捉える。
早速異能を用い、情報収集を始めるシュウ。
最初に聞こえてきたのは強盗達の会話だった。
『それでこいつをどうするんですか?』
『そうだなぁ……とりあえず連れていくか』
『殺した商人の話じゃ治療系の異能持ちなんでしょ? 便利じゃないですか』
『おまけに見た目も悪くないしな』
『うわぁ、お前は変態だなぁ。こんなガキが好みなのか』
会話から察するに積荷である異能者は女性、それも少女のようだ。
異能は治療系。詳細にもよるが連れて行かれたら面倒な事になりそうだ。
声の数や息遣いから強盗達の数は八人。
とりあえずシュウは強盗達の数や会話を部隊長に報告する。
「――その様子だとここで事に及ぶ可能性が高そうだな」
漏れ出た言葉に女性の兵が顔を顰めるが、部隊長は気にせず思索を続ける。
それから少しして、彼はシュウに別行動を命じた。
作戦は単純。強盗達の意識が少女に傾いたのを見計らって部隊長達が襲撃。
そうして強盗達が混乱し、部隊長側に意識が向いた所でシュウが死角から接近してそのまま強盗達を刈り取るという段取りだった。
シュウは命じられた通り、部隊長達と別れ一人行動を開始する。
部隊長達は荷台内が見える位置に移動中。シュウはその反対側だ。
強盗達は車内に四人、外に四人という配置なのだが、中を覗くつもりなのか外の四人は全員、荷台の中が見える位置に留まっている。
これでは車両が死角となってシュウ側の様子がよく見えず、見張りの意味がない。
思わず敵であるはずのシュウがため息を吐きたくなる程だ。
強盗達はあいも変わらず趣味嗜好の話で盛り上がっている。既に『見つけた少女をどうするか』という話題からも脱線しているのだが、それを指摘する者もおらず完全に油断しているという有様だ。
視線を彼らの車両の方へと切り替える。
よくある使い古された車両。比較的手に入りやすいものである。それは彼らの装備も同様だ。
警戒の甘さといい、統制のとれてなさといい。どうやら組んだばっかりの集団のようだ。大方どこかの小勢力を無断で飛び出してきた連中だろう。
何故、無断なのかわかるのかというと飛び出たばかりの連中が車両を三台も持っている訳がないからだ。
普通なら良くて車両や単車を一台分けてもらえるかどうか。罪人なら無一文で放りされる事もあり得るという話だ。
と、そうこうしている内にようやく強盗達に新たな動きが見えた。
どうやら部隊長の予想通りの展開になるようだ。盗み聞いた会話がそういう方向へとシフトしている。
一瞬、すぐさま飛び出したい衝動に駆られるが、それを抑えて部隊長達の動きを待つ。
見張り連中はようやく待ちに待った展開が来て車内の様子が気になるのかしきりにそちらの方へと視線を向けている。
当然、四人全員がそんな状態では見張りが見張りとして機能するはずもなく、結果、四人中三人が砂山の影から放たれた部隊長達の銃撃によって頭部を撃ち抜かれた。
突然響いた銃声に中で楽しもうとしていた連中は驚き、一人残った見張りは悲鳴を上げる。
物陰や隅に身を寄せる様子もなし。そんな素人全開の彼らに対して部隊長達は手を抜かない。そのまま残る一人の見張りも始末する。
生き残っていた最後の見張りも倒された事でようやく強盗達は自分達が襲われている事を理解したらしい。
開いていた後部ドアを慌てて閉めて盾にすると窓を割って応戦し始めた。
そのタイミングでシュウが動き出す。
砂山から飛び出し、音を消して車両へと近づくと密やかに運転席のドアを開ける。
目的は荷台側を覗ける小窓。それを気付かれない程度に薄く開けて隙間を作るとそこから漏れ出る音を解析して中の状況を掌握する。
強盗達は窓側に寄って応戦中。件の異能者は運転席側の壁にもたれ掛かっているようだ。
これならここからでも狙える。
そう判断したシュウはさらに小窓を開きそこに拳銃の銃口を突き込む。
そうして発砲。テンポ良く四発の銃声が車内に響き渡り、それが止むと同時に強盗達の声と呼吸、銃撃音が止まる。
音量を増大して心音を確認する。鳴っている様子はない。どうやら完全に息絶えたらしい。
異能者の方は未だに静止中。先程から全く動く様子がない所を見ると、状況についていけずぼう然しているのかもしれない。
超音波の反響からわかる体格は自身の同じくらい。恐らく同年代だ。
「大丈夫?」
とりあえず声を掛けてみる事にする。そのまま後部ドアに行ってもよかったが、その場合恐らく反応が鈍いままだっただろう。
だったら、先に声を掛けておいた方が驚かれずに済むとシュウは判断した。
丁寧口調をやめたのは歳が近いならそっちの方が向こうも話しやすいと考えたためだ。
『――え?』
返ってきたのは小さな驚きの声。
声質からしてやはりシュウと同年代くらいの少女のようだ。
異能を使ってやっと聞こえる程度なので返事というよりも掛けられた『声』に驚いているのだろう。
「今からそっちに回ってドアを開けるから……いい?」
確認するように問うと今度はしどろもどろなる。
どうやら本当に開けて大丈夫なのか迷っているようだ。
そんな反応を聞きながら、シュウは運転席から降りる。
彼が後部ドアに辿り着く頃には部隊長達も車両に近づいてきていた。
彼らに自身の拳銃を預け、シュウはドアの取っ手に手を掛ける。
そしてカウント。ゼロの合図と共に彼は後部ドアを開けた。
開いた後部ドアの向こうに広がっていたのは二つの光景。
一つはシュウの生み出した四つの遺体。
頭部を撃ち抜かれた死体が四つ、後部ドアのあった付近に折り重なって倒れていた。
もう一つは囚われていた異能者。
やはり、予想通り少女だった。
日に焼けていない白い柔肌。雪のように透き通った銀髪。そして血のように赤い瞳。
銀髪は後部で二つに結われ伸びている。一般的にツインテールと呼ばれている髪型だ。ただ髪尾自体はそれ程長くなく、先っぽが首元に少し掛かる程度の長さ。
顔立ちは砂や油等で汚れているが、なるほど、強盗達がそんな事を考えるのに納得できる程度には整っていた。
現在、少女の状態は立ち上がって後部ドアを振り返って見ている状態である。
どうやら小窓に寄ろうしていた所を開けてしまったようだ。
そんな少女の元へシュウは歩み寄っていく。
部隊長達は近寄らない。年齢や現状から武器を持った大人が近づくより武器を持たない同年代が近づいた方が話が進みやすいと判断したからだ。
「俺はシュウ。名前、聞いてもいい?」
その意図を汲み取りながらシュウは少女に話し掛ける。
シュウに話し掛けられた少女は一瞬、奥にいる部隊長達に視線をやり、少し迷った様子を見せたもののおずおずと口を開く。
「……ノエル。ノエル・ハイビス」
どうやらまだ警戒しているらしい。とはいえ、状況を考えれば仕方ないだろう。
助けてくれたと言え相手の事が全くわからないのだ。これから一体、どうなるのかわからない以上、警戒してしまうのは当然だ。
そんな相手の反応に気付かないふりをしながらシュウは話を続ける事にする。
「怪我はない?」
「……大丈夫」
ざっと見た所、負傷している箇所はなく立ち姿もしっかりしている。
これなら一安心だ。
そのため、シュウは次の質問へと移る。
「えっと、ノエルは外の国から連れて来れられたんだよね? 車や船とか乗って」
コクンと首肯。反応が早かった事に安堵しつつシュウは質問を続ける。
「どこに住んでいたかはわかる?」
「……オーラル」
「――え? オーラル?」
再度の問いに肯定を返すノエルに目を見開くシュウ。その理由は彼の生まれ育った国もオーラルだからだ。
「ちょっと驚いた。まさか同郷者とこんな形で会うなんて……」
「――もしかしてあなたも?」
その問い掛けに頬をかきつつシュウは頷くと今度はノエルが目を見開く。
二人の生まれ育ったオーラルという国は小さな島々から構成された小さな連邦国家である。
独特の歴史と文化を形勢しており、近年はそれを目玉とした観光業が盛んだ。
また高い技術力を持っており、質の高い製品を他国へ輸出する国際企業がいくつも存在しているのも特徴の一つであった。
異能者をさらって連れてきている以上、同郷者と出会う可能性はあるかもしれないと頭の片隅程度には考えていたが実際に会ったのはこれが初めてである。
意外な共通点を見つけたからだろう。先程までと打って変わってノエルと名乗った少女は興味深そうにシュウの方を見つめてきている。
その視線にくすぐったさを感じながらシュウは新たな質問を投げ掛ける。
「さらわれたって事は異能者なんだよね? どういう異能なの?」
「……治療系。触れた箇所の傷や疲労を癒せる」
後方から漏れる感心した声。
それが事実なら彼らの気持ちもわかる。
治療系の異能はこの地ではかなり有り難い存在だ。
薬や医療設備を揃えるのも難しい現在、満足な治療ができる場所はかなり限られている。
シュウ達の暮らすストラでさえ、ある程度の薬のストックがあるだけだ。
難しい手術などできるはずもなく、縫合等も機械ではなく手作業でやっているという有様だ。
だが、治療系の異能はそういったものを必要とせずに治すことできるものが大半である。強力なものになると深手の傷を一瞬で治したり、失った身体の一部を生み出す事さえできるものもあるという話だ。
兵士だけでなく住民にとっても心強い存在。
けれども、それは同時に多数の需要がある事を意味していた。需要がある以上、売り手は商品を探し求めるもの。つまる所、彼女がこの地に連れてこられたのはその異能を持っていたせいだとも言える。
なんとも言えない複雑な感情が胸の内で渦巻くが、シュウはそれを首を振って振り払う。どうやら同郷という事でかなり情が移ってしまっているようだ。
ともかく聞きたい事は聞けた。後は彼女をどうするかだ。
シュウは背後の部隊長に視線を向ける。
彼女を確保していた奴隷商人が死んだ事でノエルは自由の身となった。だが、だからといって助かったのかといえばそういう訳ではない。寧ろ、より過酷な状況に追いやられたとも言えるだろう。
なにせ彼女はここから先、一人で生きていかなければならないからだ。
奴隷生活は辛かっただろうが、商品という事で奴隷商人達から生きるための最低限の面倒は見てもらえた。けれども、これから先はそれらすらも自身の手で手に入れていかなければならない。
行く宛もなく、助けてくれる人もなく、生き抜くための力もない。
まさにないない尽くし。きっとこのまま放り出されれば三日も保たずに干からびる事になるだろう。
よしんば助かっても幼い彼女ではいいように利用される未来しかない。
正直、シュウとしてはどうにかしたいという思いはある。だが、一介の兵士でしかない今の彼には彼女の処遇を決める権限はない。故に彼はその権限を持っている人間に彼女の処遇について問い掛けているのだ。
「――とりあえず連れて行こう。本当に治療系の異能者なら村長も有用性を認めるだろう」
「そうですね」
幸いな事にノエルは治療系の異能者だという話だ。
ストラに同種の異能者がいない以上、オルストの立場としては是非とも彼女を確保したいと考えるはず。
であるならストラに置いてもらえる可能性は高いと言えるだろう。一緒にいられるならシュウもいろいろとフォローする事だって可能だ。
「――って事なんだけど、来る? 一応言っておくけど駄目だとここに置いていく事になると思う」
正直、脅しのようであまり言いたくはなかったが誤解を避けるためにも後半の言葉は必要だった。
シュウの言葉にノエルが一瞬、驚き慌てるが、やがて選択肢が決まったのか意を決した表情で彼の方に近づいてくる。
「――行きます」
シュウの衣服の裾を掴んで零したのはただ一言。
それで方針は決まった。
自身の未来を選んだ彼女にシュウは微笑み、『わかった』と言葉を返すと部隊長の方へと振り返る。
彼の視線を受けて部隊長は撤収を命令。
そうして一名を加えた一同は車両に戻って、そのままその場を後にしたのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Scene:7「出会い」:完
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