「雨の物語」(昭和52年 1977)イルカ

 約1年ぶりのアップとなりました。

 この間、特に、此処に挙げる曲を思い出そうとしたり、探したりはしていませんでしたが、先日、職場の廊下を歩きながら窓越しに雨が降っている外を見ていたら、♪化粧する君のその背中がとても… と自然に口ずさんでしまい、しかし、その先の歌詞がどうにも出てこなくて、後で、フルで聴いてみると、リアルに降っている氷雨が沁み込んでくるかのように脳内の隅々にまで行き渡ってしまい、此処に挙げる曲にしました。

 私は、イルカのファンでも伊勢正三のファンでもありませんが、この曲が自分の人生の何処かに入り込んでいたから冒頭の歌詞が思わず口から出たんだろうと思います。でも、やっぱり、エピソードは思い出せません。


 2番までありますが、歌詞はすごく短いです。198文字。

 曲名に「物語」と付けていながらすごく短いストーリーです。

 なので、この曲に登場する「僕」と「君」に何が起こったのか、聞き手が想像する部分が多くなります。また、どんな聞き手もセンチメンタル的に共感できるように、伊勢正三はわざとディティールを設定しなかったのかもしれません。明らかに「22才の別れ」とは違うところです。


 1番の歌詞ですでに、「僕」と「君」の物語が終わっていることがわかります。化粧をする「君」の背中を後ろから見て、その背中が小さく見えることで「僕」が「君」をまだ愛していることを自覚します。ということは、「僕」はこれ以前に「君」にふられたのか、事情があって「僕」が「君」を愛していながら別れを選んだ後日のことだろうと想像できます。


 2番の歌詞は、時間をさかのぼっています。「君」が「僕」の部屋のドアの前に立っています。部屋に入っても悲しい物語が待っているだけなのに、です。

 結局、部屋に入った「君」は1番の歌詞にある通り、化粧をする(し直す?)までの時間を過ごしますが、「君」がなぜにそのお化粧をしたのかは歌詞からはわかりません。事情アリだった「僕」とよりを戻す行為をしたからなのか、否、それは無い感じがします。「僕」の部屋に来るまでに雨に当たってしまったからでしょうか。

 2番の歌詞の最後。

♪窓の外は雨 あの日と同じ 肩を濡らした君がドアの向こうに立っていたのは

 雨が降っているのだけ同じだけれど、肩を濡らしたの「君」と今日の「君」は違うのでしょう。


 「悲しい物語」とわかっていて、なぜに、「君」は肩を濡らしてまでも「僕」の部屋を再び訪れたのでしょう。このストーリーがどうにも読めません。しかし、この曲の結末として言えそうなのは、「君」はやむに已まれずに「僕」の部屋を訪れたのです。そして、訪れたからといって、「君」も「僕」も浮かばれないのです。


 さすが、センチメンタル・キングの正やん…

 詳しい事情をちっとも説明しないで、センチメンタルなところだけを聞き手に味わさせて、しかも、この私に数十年ぶりに口ずさまさせるのでありました。

 



♪「雨の物語」(昭和52年 1977)イルカ

 作詞・作曲:伊勢正三

https://www.youtube.com/watch?v=CTz-DJMnv4k




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