終章
復興都市新宿
今まで誰の干渉もなく荒廃していった新宿に工事の手が入り、住んでいた者たちがそれを複雑な感情で見つめていた。
ビルの屋上から、同じように複雑な表情で見下ろしている飛鳥。
「変わって……いきますね」
たった今屋上まで上がった風。着地の衝撃を逃がすためにしゃがませた体を起こし、飛鳥の隣りに立つ。
「あぁ、変わっていくんだな」
「えぇそうですね。いやぁ、さすがのあたしもこんなに早く復興が始まるとは思っていなかったですねぇ」
工事の手は一箇所だけでなく、多方向から同時に工事が始まっている。今ある建物を壊し、地盤を作り直してそこに新しく建物を建てる。
新宿駅近くで起こった都庁崩壊からすでに数ヶ月。双つ影の存在を認めて公にした政府は、それと同時にそれらしい病名をも発表し、さらに同時にそれについての特効薬をも発表した。
「キミはまだ力を残しているのか?」
「それは飛鳥さんもでしょ?」
最後の闘いのあと一度は、力が消えたはずの多くの双つ影の能力は再び元通りに。そして自主的にあるいは強制的に双つ影は薬を投与されて一般人に戻りつつある。
「私はすべてが元に戻るまではこの力を持っているつもりだ。今まで新宿をこのままにしておいたのは私たちだ。せめて元に戻るまではなにがあってもいいように力を持ったままにしておくべきだと思うんだ。
勝手かもしれないけどな」
「そんなことはないんじゃないですか?」
風の言葉にかぶって、解体途中だったビル群の一角で爆発が起こる。それから数秒経って2人がいる屋上へと下方から弾丸のように飛び込んでくる影。しがみつくように手足をコンクリートに張り付かせ
「風姉大変だよ! 神楽坂が暴れている!」
言うだけ言って再度地を蹴り上げ、ビルからビルへと飛び乗って現場へ向かう。
「こう言うときに役立ってこそ双つ影でしょ?」
片目だけ閉じて見せて、離れたビルへとムチを伸ばして飛び去る。炎が立ち上がるビル群を視界に収め
「そうだな、それでこそ、双つ影か」
解体工事ではない爆発の振動に、一般人が立ち入れるギリギリの境界線に立つ青年は、足元を遅う衝撃に手に握っている車椅子をいっそう握りしめる。
「キミも……本当はあそこに行きたかったんじゃないのか? ……慎二?」
車椅子に座る少女は首を微かに後ろに向ける。それ以上曲げると激痛が走り、それを知っているから青年の方から少女の顔をのぞき込むことが多い。
「そう思うか?」
「あぁ。なぜならキミはまだその力を残したままでいるからな」
「いやいや。これはあの時オレをかばってくれた真央に、なにがあっても守れるように残しているだけだ。闘いのために使うつもりはない」
「……そう?」
「ん?なんで意地悪そうに笑う?」
のぞき込まれた少女は薄く目を閉じて笑みをこぼしていて
「嬉しいから嬉しい表情しているだけ。なにか悪い?」
2人の視線が離れて街を見つめる。それまでいた街を、これからはいない街を。
了
双つ影 桐生細目 @hosome07
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