番外編(8)

表情は硬かったが、はっきりと「好き」という言葉を口にした。

その言葉をアレックスは待っていた。

「よし、認めたな。さっさと告白してくっついちまえ。もうそんな恋愛経験のひとつやふたつあってもいい年令としだぜ。」

バーンにとって初めての恋。

こんな日が来るとは、正直思っていなかった。

弟と5才も年が離れていると、なんだか父親のような心境だった。

昨日、会った彼女。

ラシス・シセラ。

バーンからあえて彼女の名前を聞かなくてもわかっていた。

一番気にかけているのは彼女だと。

一番気になっているのは彼女だと。

あの彼女なら、バーンの支えになってくれると思っていた。

あの彼女なら、バーンのことをわかってくれると思っていた。

昨日、自分が感じた直感。

間違いないと確信した瞬間。

だが、バーンはそれをいとも簡単に否定した。

「…できないよ」

そう言って、口惜しそうに唇を噛みしめた。

「あんでだよっ!」

やっと認めたと思ったのに、拒絶したバーンに腹を立てた。

「できない……」

自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

「もし、俺が彼女に関わることで・・・・彼女に災厄が降りかかってしまったらって思うと…」

悲しそうな顔で兄の足元を見ていた。

ついこの前もひとり死人が出てしまっている。

バーンがラシスたちのもめ事に割って入ったあと、彼は死んだ。

死因は事故だとしてもその事実は変わらない。

それを自分のせいだと思っていた。

自分に関わるものは『死の翼』に触れると。

自分が関わらなければ必然に死は訪れないと。

そう信じて疑わないのだ。

「……バーン」

半分怒りに任せて、ドスのきいた声でアレックスは弟の名を呼んだ。

「!?」

驚いて顔を上げた。

ムッとした顔でアレックスはバーンを見ていた。

「そうまで言うなら、なぜ彼女をお前が身体をはってでも護ろうとしねぇんだよ。俺にはその方が信じらねないね」

投げやりに言い捨てた。

アレックスはバーンに後悔してほしくなかった。

今まで何かとあきらめて生きてきた。

今度ばかりは思い通りにしてほしかった。

自分の心のままに行動してほしかった。

「もし、彼女がいい女ならそんなのんきな事言ってると誰か他のヤツにさらわれちまうぜ。そう、例えば俺とか、な。」

わざと怒らせるようなことを言った。

バーンに喧嘩を売っているように、弟を見下げるような視線を送った。

バーンもそれに気づいて、アレックスを見上げた。

「…それでも……いい」

無表情のままはっきりとそう言った。

が、眼には怒りが現れていた。

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