第6話 回想(1)

俺たちの両親は学者だった。

親父は、考古学者。

おふくろは、化学者。

結構、晩婚だったらしい。

俺が生まれたあと、おふくろにはしばらく次の子供ができなかった。

なぜかはわからない。

両親は早く俺の下に弟か妹がほしかったらしいんだが。

だから俺たちは5才も年の離れた兄弟なんだ。

俺が生まれてから5年後。

ようやく子供ができたとわかった時は、両親はすごく喜んでいたことを覚えている。

一点の曇りもないくらい眩しいおふくろの笑顔。

まるで聖母のような微笑みが家じゅうを照らし、包み込んでいた。

おふくろの大きな腹に耳をつけて、話しかけたこともあった。

あいつが生まれたのはちょうどクリスマス。

家族にとっては大きなクリスマスプレゼントなんて親類に言われた。

あいつの右眼は…生まれたときからあの色だった。

何千人、何万人に一人のオッド・アイ。

医者は何らかの先天的理由で眼の色素がうまく定着しなかったからだって、勝手な理由をつけた。

右眼の色以外はいたって普通の赤ん坊と一緒だったよ。



はじめて、あいつの持つ不思議な力を見たのは、俺が5才の頃。

あいつが生まれて3ヶ月くらい経った頃。 

あいつをベビーカーに寝かせて、おふくろと一緒に公園へ行った。

天気のいい日だった。

すやすやと眠る赤ん坊。

ベビーカーは木陰にとめられた。

俺は公園の中を走り回って遊んでいた。

やがて、遊び疲れておふくろのところに戻ると、何があったと思う?

いや、見えたと言うべきか。

ベビーカーの日よけやふちに野鳥が十何羽も留まってさえずっていた。

おふくろも初めのうちは、バーンに危害が及ぶのではないかと思って追い払おうとしたらしいが、逃げないんだ。

鳥たちが。

バーンの顔をのぞきに来ては、さえずり、手を伸ばしても逃げないし、触れられるんだ。

まるでバーンがいることを祝福するかのように自然に集まったみたいに。

ベビーカーの中で目が覚めたあいつは、にこにこしながら鳥たちを捕まえようと手を伸ばしていたよ。

今にして思えば、あのころがあいつには一番幸せな時期だったのかもしれない。



やがて、そんな時期も終わる。

最初の悲劇がやってきた。

家族は努めてあいつの眼のことは気にしなかったけど、他人は違う。

他と違うってだけでレッテルを貼られ、疎外される。

あいつが5才になって、来年はPrimary Schoolへの入学が近くなった頃。

家の外へ遊びに行くこともせずに、あいつは家の中で本を読んでいるのが好きな子供だった。



「いいお天気よ。お庭ででも遊んだらどう?」

リビングのソファで本を読んでいるバーンに優しく声をかけた。

バーンは無言で首を横に振った。

「アレックスも一緒だったら、大丈夫よね? アレックス?」

母は2階にいるアレックスを呼んだ。

「なに?母さん。」

階段の踊り場からひょっこり顔を出して、階下にいる母の顔を見た。

心配そうに目で訴えている。

こんなに家に閉じこもってばかりいては、おかしくなってしまうのではないかと。

アレックスもそんな母の気持ちを察しておりてきた。

「おい! 外に行こうぜ、バーン。公園に仕掛けた巣箱に鳥が入ったか見に行こうぜ。」

読んでいた本をひょいっと取り上げて、プラプラさせている。

バーンは、「返してよ!」と言いたげであったが、ため息をひとつつくと仕方なく立ち上がった。

「OK じゃ、いってくるよ。母さん。」

アレックスは本を母に手渡した。

右手でバーンの腕を持ち、引っ張りながらアレックスは駆けだした。

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