第119話 転機(3)

栗栖さん・・


仕事のこと考えてるのかな・・



あたしと違って


すんごい仕事できるし。




責任ある仕事だってバンバンしてて。




子供ができたりしたら


やっぱり休まないとだし。


赤ちゃんだって預けて仕事をすることになるし。




夏希は高宮との会話で萌香のことを思い出してしまった。





「夏希はずっと仕事は続けたいんだろ?」


高宮は言った。



「・・え? あ、うん。」


と返事をしたが



そうなのかなあ・・?



と、自分に問いてしまった。



できれば


したい・・


かな?



「夏希はまだ入って3年だし。 ようやく一人前になってきて、辞められたらやっぱり困るだろうしな、」



あたしが辞めたら


困るんだろーか。




母親は自分が小さい頃から仕事をしていて


保育園に預けられていた。


熱を出して休んだりすると、母親も会社を休まなくちゃならなくて。


今思えば


大変だったろーなァ。



母のことも思った。




「隆ちゃんは。 どうしてほしい?」


夏希は高宮に言った。



「え? どうしてって・・別に。 夏希がしたいようにすればいいと思うけど。」


ガムテープで箱を閉じながら言った。



「じゃあ。 あたしが仕事辞めて専業主婦になるって言ったら?」



「はあ?」



驚いて彼女の顔を見た。



「え、そうなの?」



逆に聞いてしまった。



「・・じゃ、ないけど! もし、そうだったらって、」



と言うと、高宮は笑って



「別に。 それでもいいよ。 おれは夏希を養っていく自信もあるし。」


と言った。



夏希はぽけーっとしたあと、



「・・まあ・・辞めないけどね。 今は。」


と言った。



「なんだよ、もう・・」


高宮は笑ってしまった。



そっか


ほんと結婚すんだよね。


あたしたち。




ヘンなところで実感してしまった。




そして


翌日、新居に引っ越すことになり。


もう、部屋のものはほとんど運び出してしまった。




「明日。 何時なの?」


斯波の部屋にやって来た夏希に、そう聞いた。



「えっと・・9時には引越し屋さんが来るんで。 あとは大きなもの運んで・・・」



「おれと萌香、明日は仕事だから。 手伝えなくて悪いけど、」


斯波はタバコを燻らせながら言った。



「あ、いえ。 南さんが来てくれるってゆーんで。」


夏希はひきつって笑ったあと、



「・・斯波さん、」



いきなり彼の前で正座をした。


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