70デシベルの愛

小林礼

第1話 70デシベルの愛

「わたしのこと、どのくらい好き?」


 うちの妻は、時々ぼくにこう尋ねる。正直面倒だなと思うけど、同時にちょっとだけ妻が可哀想になる。定期的に愛情を確かめずにはいられない妻が。


 だから、いつものように「いっぱいだよ」と返したのだが、妻は不服そうな顔をした。


「いっぱいじゃわかんない。メートル換算して」


 うちの妻はたまに無茶ぶりをする。じゃあ百メートルで。


「短くない?」


 ご不満ですか。百メートル潜るって結構すごいんだけど。なら一キロメートルで。


「なんか近いね」


 駅までの距離だよ。徒歩圏内は譲れないけど、賑やかすぎるのも苦手だからこの辺でって決めたんでしょう。古いけど家賃は手頃で、二人分の荷物を持ちよっても余裕な、ぼくらの家。


「引っ越してよかったね」


 そうだね。満足したなら、そっちの段ボール開けてくれるかい。


 翌日、今度はぼくから同じことを訊いてみた。答えは「七〇デシベルくらい」。うちの妻はやっぱり変わっている。


 

 

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