ヒッチハイク物語 第1部〈入門編〉初めてのヒッチハイク
鈴木ムク
ヒッチハイクって、どうやるの
ヒッチハイクとはようするに無銭旅行。お金を使わずに旅行をするというムシのいい話である。そのためには自分の足と、ドライバーの親切だけが頼り。キャンプ用品やら食料やらのつまった重たいリュックを背負って、人気のない国道をどこまでも歩き続ける覚悟が必要だ。そして通りかかったトラックにヒッチ・サインを送る。親指を立てたげんこつを行きたい方向に振るのだが、その手を高く上げ、体はちょっと斜め、反対の手を軽く腰に添えるのが理想形である。このポーズ、ぼくは鏡の前で何度も練習したものだ。そして運よく車が止まってくれたら、すぐさま追いかけて助手席の窓から行き先を言う。ドアが開いたら交渉成立というわけだ。
ヒッチ・サインを出す場所は、見通しがよく、車を止めても迷惑にならないような広いところに限る。高速道路の料金所や信号待ちの車に直談判したほうが手っとり早いと言われることもあるが、それはルール違反だとぼくは思う。ヒッチハイクは物乞いではない。長距離の運転に退屈したドライバーが、話相手や眠気防止にちょっと乗せてみようかと思う、そのドライバーの意思とハイカーの意思が一致してはじめて成立するものだ。だからドライバーの自由意思を最大限尊重すること、そして交通の妨げにならないこと、この二つだけは絶対に守らなくてはいけないとぼくは考えている。
もう一つだけ注意がある。ヒッチハイクは多くても二人、それ以上だとトラックの助手席に乗れないからだ。小さなトラックでは一人でも窮屈なくらいだ。なにしろ荷物が大きいから。荷物はなるべく減らして、身軽になったほうがいいに決まっている。だけど衣・食・住の全部を持って歩くわけだから、どうしても大きくなってしまう。したがって車に乗せてもらうには人間の方を減らすしかない。ヒッチハイクの成功率から言えば、二人より一人のほうがだんぜん有利なのである。というわけで、一人で行動するケースも多い。これはこれでけっこうシンドイことだ。テントを張るのも食事を作るのも一人、なにもかも全部一人でやらなければいけない。夜中に、山の中の真っ暗な国道を一人で歩くときの不安やら心細さは、やってみなければわからないだろう。とにかく自分だけが頼り、自分の身は自分で守らなくてはならない。無理をしないこと。危険なことはぜったいやらないこと。それよりもまず、危険の匂いをかぎわけ、近づかないことである。
ところで、初めてヒッチハイクをしてみるまで、ぼくはトラックなんかに乗ったことがなかった。なにも知らなかったし、不安でもあったから、ぼくは友達のヒデとトシを誘った。二人ともぼくの貸した本を読んでいたから、すぐに話は決まった。つまり、三人でヒッチハイクをやってしまったのである。
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