戦国稲荷御伽草子・弐 〜咎の恋と雪の婚礼〜

笠緖

序章

 京の都で、将軍の跡目相続を引き金に起こった長い長い大戦からはや二十年。

 都の荒廃は地方へ飛び火し、将軍家の息のかかった守護大名は長年の戦にて力をなくし、その配下であった者や豪族、さらには商人、百姓でさえも力さえあれば上へ上へと高望み、そして主の座に食らいつく時代。

 下剋上――群雄割拠の時代。

 そんな時代、とある一地方を治める守護大名家に名もなき小さな騒動が起こった。

 一部の者によって起こされた小さな小さな騒動は、一部の者のみの手で解決へと向かい、世の人、誰にも知られることもなく、軍記物語として残ることもなく、歴史の大きな波に埋もれていく。

 けれど。

 その小さな名もなき騒動で、とある一地方に世にも珍しい女大名が誕生した。

 鳴海国なるみのくにさかき家。

 息女の名は、阿久里あぐり

 将軍家より守護大名を仰せつかった名門・榊家の六女である。



 これは、鳴海国にて起こった小さな名もなき騒動を発端として、彼女が大名の座を得てからのちの、僅かな時を経ての物語――。

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