僕は、何者にもなれなかった。

木漏れ火

第1話 僕は、何者にもなれなかった。


僕は、何者にもなれなかった。


配られる給食 励む部活動

土がこびりつく体操着


誰が好きかと話す放課後

夕焼けが照らす誰もいない教室


睡魔と戦う授業 蛇が這うノート

安堵するチャイム くだらない休み時間


登校の気だるさ 下校の清々しさ


何もかもが普通だった

大人になったら、苦痛になった


あの頃思い描いていた未来とは裏腹に


突然、「社会」というメガネを無理やりかけさせられ

夢も希望も潰えたような妄想を

何十、何百も繰り返し


まるで、"蛇に巻き付かれているかのように"

身動きが取れなくなってしまった


コンビニの弁当を食べながら

カーテンの隙間から見える月を眺めても


「これは僕が月を見てるんじゃなくて

月が僕を見ているんだ」


そんな風に思ってしまうようになった。







。。。だからなんだという話だ



友人の話を聞いて

納得出来ない事が多々ある。


「いわゆるその"社会メガネ"は誰に貰ったんだ?」

「上司か?家族か?それとも友達か?」

「元々やりたいこともなかったし、平凡な人生にこそ意味があると言ってたのはお前じゃないか」


だが、もうそれを外せなくなってしまった彼に全てを問いかけるのは少々気が引ける


"彼の為に"言う。という選択肢は

あくまで彼と似通った経験をしていないと

言葉の重みが変わってしまう


なにより

「お前にはわからない」

と言われたら、返す言葉が無い。


そしてお決まりの文句を言う


「そっか、大変だね」


こんな言葉しか言えない自分にも憤りを感じるが、

彼が変化を恐れ、現状打破の糸口すら見つけようとしないのなら


何を言っても言葉は二酸化炭素と紛れるだけだ。


果たしてあの頃求めていた「大人」は

僕らに何を魅せていたんだろうか。





-------記憶が反芻する



「期待するから裏切りが生じる」

「希望を持つから絶望がある」


彼の口癖は留まることを知らなかった


彼は真面目で、優しすぎたんだ

僕より、ずっと。


幸せな思い出は時と共に薄れていく

同時に辛い事や悲しい事が

脳内にある小さな世界を埋め尽くして


やがて"自分"を無くしてしまう。


誰にでも起こりうる事だ。


振り返れば振り返る程

進むべき道が分からなくなる。


日が沈めば月が顔を出す

晴れが続けば雨も降る

新たな生、消えてく命


当たり前は今日まで僕らを縛る。


ただ、縛られている事には気づかないものだ。


そして僕は、何者でもなかった彼の耳元で

静かに言葉を送った




「僕だって、何者でもないよ。」




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