30代・社畜の今夜も眠れない

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第1話_私の高尾駅

「ネタが切れたら書こう」と思っていたことがある。

「中央線の駅についての想い出を、各駅について順番に書いていく」のだ。


初回からこういう話をさせていただくのも気が引けるのだが、さっそくネタが切れている。

なので、これを使わせていただこうかと思う。


では初回!!!!

「高尾駅」!!!!!

イエーェェーーーーエーーェェーーエーーーーーイ!!!!

(なんかさ、文字装飾とか、文字色とまでは言わないまでも、せめて太字とか文字の大きさと変えたいと思う。思うのよ、カクヨムさん!!!)



【私の高尾駅】(←これ、h2タグね。## でもいいよ)

「私の高尾駅」っていうこのタイトル、自分的には気に入っている。

なぜって日経新聞の「私の履歴書」みたいじゃない?


「私の履歴書」って、しばしば本当にクソみたいな回があるよね。

元役人とかが「当時の上司は△△局から出向してきた○○さんといって、×××という仕事をされた方であった」みたいな、「誰も知らねー」みたいな話をしていて。

いいーーーーーー!!!!!」って、筆者の目の前で叫びたくなる。(←「カクヨム記法」で傍点付けてみた)


俺の書いてるこの文章も、そういうレベルのどうでもよさを心がけたいので、「私の高尾駅」というのは心地よいタイトルだなと、思うのである。

「え、お前の高尾駅??? うわっ、引くほどどうでもいいな引くほどどうでもいいわ」(←カクヨム記法でルビ振ってみた)

と、思っていただければ幸いである。




高尾駅というと、俺の脳裏にまずパッと思い浮かぶのは、なぜか「澤乃井」なのだ。

あれは高尾ではなく、奥多摩の酒だ。


一時期、高尾に住んでいる友人の家で、しばしば集まって酒を飲んでいることがあった。

大学のゼミのようなものの同期で、だいたい男2女3ぐらいの人数で集まっては、キムチ鍋などつつきながら飲んでいた。

高尾から帰ろうなんてするとたいがい終電が早いから、女子たちは10時半とか11時には席を立って帰りの電車に乗る。

そうすると、家主と俺の男2人は、女子たちを見送りに、夜の高尾駅までえっちらおっちら歩いていくわけである。


高尾駅なんていうものをご存知の皆さんにおいては、だいたいあれは昼間の印象が強いと思う。

奥高尾の陣馬山あたりの登山口までバスに乗ったりする駅なわけである。


夜の高尾駅は、昼間は登山客でにぎわっているバスのロータリーも、すっかりと息をひそめて静まり返っている。

俺と家主は、和風に作られた駅舎の入り口が、そこだけ昼間の観光名所のような雰囲気を残している改札口で女子たちを見送り、寒さに急かされていそいそと家主の家へと向かう。


道すがらのコンビニで「酒でも調達するか」ということになるのだけど、「もうビールっていう感じでもねぇな」ってことで、日本酒を見たりする。

そうするとそこに、「澤乃井」があるわけである。


夜の1時ごろに、面白くもない駄菓子をつまみながら、家主と俺で、酒を飲んでいる。

帰ってしまった女子の誰かに恋をしているわけでもなく、何か特別に情熱を寄せるような課題が目前にあるわけでもなく、のめりこめる趣味があるわけでもない。

今の自分たちに可能なもっとも有益な行動は、さっさとこんな酒飲みの席など畳んでしまって、眠りにつくことだとわかっているけれど、それほどまでに自分たちがつまらない人間だと認めることができないような気がして、いつまでも無駄な酒を舐めている。


そんな、空白みたいな夜に、せめて口にしているのが、東京の、高尾からそれほど遠くない、奥多摩の酒だということが、味の良しあしとはまったく別のところで、いくらかだけでも気持ちをラクにしてくれるのである。

たとえばそんな夜に口にしているのが、北陸だとか関西の酒だったとしたら、どこの何でもいい酒を、どこの誰でもいい自分たちが舐めていることに、また一層の虚しさを感じたことだと思う。

しかし東京の西部奥深くに引きこもって、せめて同じ東京の西部奥深くの酒を舐めているということだけが、まだ自分たちの確かさというものに、少しでもつながるような気がした。



あれから10年たった。

性懲りもなく、また俺はこの、特に面白くもない文章をしたためはじめているわけだけど。

どうしても何か書きたいような気持ちがしてしまう根っこの部分では、あの頃のような虚しさが残っているような気がする。

まぁせめて、あの頃より少しぐらいは面白い人間になっていないかと期待しながら、これからいろいろ書こうかと思っている次第である。

往生際が悪い。


合掌。



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