第648話 算段
「――提案があるの」
国王達が康生の処遇に頭を悩ませる中で、エルは国王達に向かってゆっくり口を開く。
エルの言葉に国王達や上代琉生達がすぐに振り返り、じっとエルが提案を話してくれるのを待つ。
「このままだと康生は化け物になっちゃうかもしれなくて、でも私は康生を絶対に助けたいと思っているわ」
そんな皆の視線を集めながらエルはゆっくりと康生の近くへ移動する。
事前に調べた通り、康生の体はどういう原理か分からないが魔力を元に体の組織が動いている。
「だから一度、康生を――殺すの」
「なっ……?」
エルの発言を聞いてその場の誰もが驚いたように声をあげる。
エルの仲間である上代琉生ですらもその発言に驚いたように表情を変化させていた。
「――つまり英雄様を諦めると?」
エルが話した提案を聞いた上代琉生はすぐにエルに聞き返す。
あれだけ康生のことを想っていて、助けようと思っているはずのエルが真っ先に康生を見捨てる選択をしたということで驚いているのだろう。
だからこそ、上代琉生はかなり動揺を見せている様子だった。
「いや、康生は絶対に見捨てないわ」
「何を言っておるのじゃ?」
しかしエルは真っ先に上代琉生の言葉を否定する。
するとその矛盾した言葉にリリスは思わず声をあげる。
康生を殺すと言っておいて、それでも見捨てないという。
そのあまりにも矛盾した提案を聞いてその場の誰もが混乱していた。
「――エルよ。詳しい説明をしてくれ」
流石にまだ説明不足だということで国王はさらにエルに話しの続きを求める。
えるとエルは康生の体に触れながら再び口を開く。
「簡単なことよ。康生が化け物になるには……つまり生き返るには魔力が必要。だったらその魔力を康生に与えなかったらいいだけよ。その間の康生の体は私が責任を持って管理しておくわ」
「なるほど……」
エルの説明を聞いた上代琉生はすぐに頷く。
「つまりコールドスリープのような感じですか」
「えぇ、そうよ」
すると国王達もエルの提案を聞いてそれぞれ反応を見せ始める。
「なるほど、それならば問題をしばらく先延ばしに出来るな」
「あぁ。その間にあの化け物について研究すれば、英雄を無事に復活させることも可能だということか」
エルの提案を聞いて国王達は康生の復活に希望を見出し始める。
「一応聞きますが本当にそれをすることは可能なんですよね?」
そして最後に上代琉生はエルに確認をとる。
「えぇ、勿論。もし出来なくても絶対に成功させてみせるわ」
「分かりました。それではその線でいってみますか」
ということで会議の指針が決まり、無事に康生を復活させる算段がついた。
そしてその会議から数年後――。
「よかったっ!本当によかったっ!」
エルは康生の背中に泣きついていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます