第646話 提案

「――さて、皆様はどうお考えですか?」

 康生を囲うように座っている国王達を見ながら上代琉生はゆっくりと問いかける。

 すでに康生の状態について話し、AIがまとめた情報も全て公開した。

 そして自分達ではなく、まずは異世界人と人間の国王達に意見を求める。

「英雄を助けるとしても、その分世界が滅びる可能性があると……」

「だが我々も、兵士達も恐らく皆同じ気持ちだろう。英雄を助けたい。そして恩義を果たすという意味でもな」

 国王は各々の意見を言いながらも真剣に話し合いを進める。

 しかしそんな中、エルは国王達の話し合いを聞きながら僅かに感動していた。

 まさかここまで康生のことを真剣に考えてくれるとは思わなかったようだ。

 そしてこれこそがエルが求めていたような、種族関係なしの友好な関係なのだ。

 それが目の前に、しかも国王達が現実に行っているということにエルはただただ嬉しい気持ちになる。

(……私も頑張らないと)

 しかしエルはそこで意識を切り替える。

 皆がこうして康生のために真剣になって話し合ってくれているのだ。

 だからこそエルが頑張らないわけにはいかない。

 それに回復に関してはエルの専門なのだ。

 この場合、エル自身一番頑張らなければいけない場面だった。

「それで、現状暴走する確率はどれぐらいなのだ?」

「そうですね……。正直どれだけの確率なのかは現状の不明です。AIを使って調べてはいるのですが、正直あの化け物は未知の物ですから情報が

全くないのです」

「そうか……」

 康生を助ける上で確実にネックになっているであろう、化け物になるかどうかについて国王はとにかく思考を巡らせる。

 そもそもあの化け物自体、これからしっかりと研究を進めていかなければいけないものだ。

 だからこそ誰もが康生のことについて決めかねていた。

「一体どうすれば……」

 しかも今回は猶予時間も少ない。

 康生の魔力が回復し、数日後には勝手に復活してしまう。

 だからこそすぐにでも決めないといけないことが国王達をさらに急かす。

「判断はまだ数日間ほど猶予があります。とにかくその間に英雄様を生かすか、殺すか。確実に決定しましょう」

 そして国王が悩んでいる中で、上代琉生ははっきりと選択肢を提示する。

「…………」

 生かすか、殺すか。その残酷なまでの選択肢に誰もが口を閉ざし何も言えなくなる。

 だがそんな中、エルだけがただ一人顔をまっすぐ前に向け、康生を真剣に見ていた。

 そしてやがて何かを覚悟したかのようにエルはゆっくりと口を開く。

「――私に提案があるの」

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