第644話 猶予
「――さぁ。それじゃあ説明してもらおうか」
拠点へと戻ってきた兵士達が一休みしている中、人間と異世界人の国王達と上代琉生、それにリリスとエルのメンバーが康生の前に集合していた。
あれから拠点へと移動する最中、上代琉生はAIからもらった資料に全て目を通していた。
そして国王達が集合するまでの間、頭の中で情報を全て整理しきっていた。
「分かりました。それじゃあ早速説明しましょうか」
そう言って上代琉生は国王達にそれぞれ簡潔にまとめた資料を手渡す。
上代琉生はまずそれを元に化け物について分かった情報を報告する。
あの化け物は膨大な魔力が集まり、そして魔力を放出させたであろう人物のわずかな意志が重なりあって、生物として誕生したのだろうと予測する。
そして現在、康生はその化け物と戦い、普通とは異なった魔力をその体に吸収し続けた結果、あの化け物と同じような生体構造になったのではないかとAIは思ったようだった。
「――よって、英雄様は現在化け物と近い容態にある。だからこそ、心臓が止まってもなお体の機能は動き続けているようです」
「なるほどな……」
そうして上代琉生から化け物についての説明を聞いた国王達はそれぞれ表情を険しくしながら深く考え込む。
そしてその視線は康生へと向かっていた。
「それが唯一、その英雄を生き返らせる方法だというのだな?」
「えぇ。現状はそれしか方法はありません」
「だが、確率的にはあの化け物のように理性を失い暴れてしまう可能性があると?」
「はい。確証はありませんが……」
「なるほどな……」
康生を生き返らせる方法が存在する。
しかしそれを行えば、もしかすると例の化け物を復活させてしまうかもしれない。
しかももし康生があの化け物になってしまえば、驚異は先ほどのもの以上だ。
あれは魔力から生まれた生物であり、知能が低くまだ対処のしようはあった。
しかし康生があの化け物になるということは、恐らく人間的知能、さらに康生本来の力全てが際限なく振るわれるだろう。
だからこそ国王達は判断を決めかねていた。
もし康生が化け物になってしまえば、今度こそ確実に世界は滅ぶ。
それが分かっているからこそ、上代琉生ですらどうすればいいか決断しかねている。
「それで猶予はどれぐらいある?」
「そうですね。ざっと数日――早くて二日程度でしょうか」
「なるほどな……」
猶予。それはAIが言っていた、放っておいても化け物に代わってしまうということだ。
康生の今の状態は魔力さえ溜まれば復活してしまう。
だからこそこうして寝ている間にも魔力を吸収しているからこそ、考える時間すらないということだ。
「そうか。とにかく一度しっかりと話し合おう」
「そうですね」
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