第628話 絶対

「…………」

 康生が放った魔力をすべて吸収し尽くした人型の生物はゆっくりと康生を見据える。

 巨大な装置をその手に持つ康生を警戒しているようにじっと動きを止めていた。

『奴の弱点は初めての攻撃は防ぐことができないということです。つまり勝負は一度きり。心してかかってください』

「あぁ、分かっているよ」

 確実に攻撃を当てる算段を考えながらも康生はしつかりと時間を稼ぐ。

 その間、上代琉生は兵士達をまとめながら必死にこの場から距離をとる。

 魔力の暴発がどれだけの規模が分からないため、とにかく距離をとらないといけない。

 しかも人型の生物に何かを勘づかれないように極力静かに移動しなければならない。

 だからといって隙を見逃すことはできず、攻撃を放つ隙さえあれば康生は問答無用で放つ。

 それは上代琉生達も了承しており、とにかく早くその場から離れるために移動している。

(さて、どうするか……)

 康生は人型の生物を見据えながら機会を伺う。

 人型の生物はなまじ知能を得たからこそ、敵は警戒しこうして時間を稼ぐことが出来ている。

 しかしその反面、知能が芽生えたからこそ攻撃の幅が一気にせばまる。

「――絶対に失敗は出来ないからな」

 じっと人型の生物を見ながら康生はゆっくりと近づく。

 この攻撃をはずしてしまえば、人型の生物を倒す手段はほとんどなくなってしまう。

 それに康生の体力も、もう限界だ。

 もしこれでしとめられなかった場合は康生はもう戦うことすら出来ないだろう。

 今は逃げる力と、ほんの少しの戦う力しか残っていない。

 だからこそこの一発でしとめないといけない。

「はぁ……はぁ……」

 緊張のせいか、康生はわずかに呼吸を荒くする。

(これで世界を救えるだっ……。そしてエル達との未来のため……。絶対に失敗出来ない……)

 康生は緊張のこもった様子でじっと装置を握り返す。


『康生っ!』


 その時、無線からエルの声が響く。

『大丈夫!もし失敗しても私達がついてるから安心して!康生は一人じゃないんだから!だから安心して、いつものように、康生らしく戦えばいいんだからねっ』

「エルっ……」

 エルの言葉に康生はわずかに心が暖かくなる。

 康生が緊張していると思ったのだろう、自分も逃げなければならないのに、こうして康生の気をつかってくれているのだ。

「あぁ、ありがとう。皆で絶対に倒すぞ」

『うん、そうだね!』

 康生の声にエルも明るく返す。

『――でも、絶対に無事に戻ってきてね?』

「うん。勿論だよ」

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