第620話 鼓舞

『大丈夫ですかご主人様?』

「きついっ!!」

 人型の生物との戦闘が始まって僅か数分しか経っていない。

 そんな中、康生の体はすでにあちこちに傷を作っており、かろうじて致命傷を避けているといった様子だった。

「学習スピードが早すぎるんだよ!俺の十年間の力がすぐに追い越されそうだよっ!」

『そうですか』

 解放の力、魔力暴走の力、そして十年間の末に手に入れた体や風の力などの装備。

 現状この世界の生物においてもっとも強いといえるだけの力を康生は手に入れていた。

 しかしその力をもってしても目の前の敵はそれを上回ってしまいそうな可能性を持つ驚異だった。

 現状はただ知性が宿ってまだ少ししか経っていないということで互角か、それ以上に戦えているしかない。

 だが敵の成長スピードは圧倒的なもので、康生が攻撃を入れる度、攻撃を回避される度に敵は戦闘データを学習していっていた。

 その成長スピードはまるでAIを見ているかのようなものだった。

『あれは使わないんですか?』

 だがそんな中、AIは康生に語りかける。

『あれを使えばもう少しはましになると思いますけど』

 康生が未だ使っていない力を使うように語りかける。

「あれは、まだだっ!」

 だが康生はすぐに拒否した。

「あれは、少しの間しか、使えないっ。だからまだ使う時じゃないっ。少なくともあいつらが作戦を考えるつくまではっ……!」

 激しい戦闘をしながらも未だに力を隠していることに驚くことだ。

 しかもいつ死んでもおかしくない状況の中、仲間を信じてその力をとっておくと康生は考えていた。

『ですがこのままいけば十中八九ご主人様は死んでしまいますよ?』

 しかしAIは客観的に状況を分析し、残酷な未来を告げてくる。

 康生の勝ち目が万が一にも残っていないかのように。

「それは違うっ!」

 だが康生はそんなAIの正確な予測を真っ向から突っぱねる。

「仲間が頑張ってくれている!だから俺も、仲間も絶対に死なない!俺が死なせやしない!」

 仲間がいるからと、皆がいてくれるから絶対に死なないと康生は声高々に叫んだ。

『そうですか……』

 なんの根拠もない答えにAIはただただ理解ができないように言葉を濁す。

「くっ、そぉぉっ!こんな奴なんかに負けてたまるかっ!」

 そして同時に康生は声を張り上げて自身を鼓舞する。

 恐らくAIの言ったようにこのままだと確実に死んでしまう。

 でも、だからこそ康生はここで諦めてはいけないのだ。

「俺は誰よりも強いんだよぉっ!」

 康生は半ば意固地になって人型の生物に突っ込んだのだった。

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