第617話 間一髪

『英雄様。かなりヤバい状況になってきました。あの生物は英雄様の攻撃を全て回避していたんです』

 上代琉生からの報告を受けて康生は眉をひそめる。

 あれだけの速度で、あれだけの回数で放ったのだ。

 なのにそれが全て避けられていたという事実にただただ困惑していた。

「――まさか」

 あまりにも不可解な力に康生は一つの可能性を導き出す。

 だがその直後、康生は激しい衝撃を感じ取りすぐにその場から移動する。

 康生が振り返るとその背後の地面で巨大なクレーターができ、激しい砂埃が待っていた。

「ちっ、回避するのも考えないとな……」

 もし背後に兵士達がいた場合、今の直撃を食らって死んでしまいかねない。


「そういえば二人は無事なのかっ?」

 そこで康生はようやくザグ達の存在を思い出す。

 先ほどの攻撃を直撃し、吹き飛んでいった二人の安否をすぐに確認した。

『大丈夫だっ。大けがはしたが、今エルに治療してもらっている』

 とそれに答えたのは時雨さんだった。

 恐らく二人が吹き飛ばされた直後に、すぐに救援に向かったのだろう。

 ひとまず無事という言葉を聞いて康生は安心する。

 だがその反面、あの二人ですら一撃で大けがを負ってしまうほどの威力だということが証明され、康生はさらに嫌な予感を膨らませる。

「くっ!とにかく離れたらダメだっ」

 人型の生物が康生をじっと見ているのを見て、康生はすぐに人型の生物に向かって突撃していく。

『英雄様っ!接近しすぎると危険ですよ!』

 だが上代琉生はそんな康生を見て、思わず止めに入ろうとする。

「いや、あれは離れれば離れるほど周囲に危険を及ぼすから近づくのが最善策だ。しかも奴の場合もしかすると……」

 しかし康生はすぐに意見を返すが、その全てしゃべり終わるより前に人型の生物がゆっくりと動き出す。

 直後、

「ぐっ!」

 突撃してくる康生にカウンターを食らわせるように人型の生物が瞬時に目の前に移動し腕を奮う。

 だが康生はすれすれのところで回避し、すぐに反撃にでようとする。

 が、人型の生物は康生の攻撃など見向きもせずに次の攻撃に移ろうとする。――否、これは決して捨て身の攻撃をしているのではない。

 この生物にはその攻撃は通じないのだ。

「ちっ!」

 康生はその事実を直感したからこそ、攻撃を中断し、防御の姿勢に入った。

 だがそれでも万が一の可能性にかけて再び攻撃を繰り出すが、やはり目の前の生物にダメージを与えることはできない。

「本当に最悪の展開になりやがったっ……!」

 攻撃を入れたことで隙ができた康生に、人型の生物は追加攻撃を繰り出すが、康生は間一髪のところで回避するのだった。

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