第608話 魔法陣

『英雄様っ!作戦開始の段取りが完了しましたっ!なので準備お願いしますっ!』

 作戦の準備が出来たということで、上代琉生はすぐさま康生に無線をとばした。

「分かったっ!」

 だが今も激戦を続けている康生は攻撃の合間を縫って言葉を返す。

 事前に聞いていた作戦では康生はこのまま目の前の物体と交戦し続けてもいいという話だった。

 だから作戦は全て任せて康生は目の前に敵に集中するだけだ。

 でもだからといってこのまま向こうに任せきりにするのはどうかと思うが、現状目の前の敵だけで手がいっぱいなので手伝うことも出来ない。

「俺は本当にこのままこいつと戦っていればいいんだよな?」

『はい、もう少しお願いします。すぐに魔道具が届くのでタイミングを見て物体の消滅をお願いしますね』

「分かったっ」

 一体どのタイミングで魔道具が届くのか分からないが、それでも康生は上代琉生を信じて今は目の前の敵に集中することにした。

「それにしても、一体どうやって魔道具を運んでくるつもりなんだ……っ?」

 康生は再び戦いに集中しようとしたが、僅かな疑問を浮かべてしまう。

 しかしすぐに敵の攻撃が迫ってくるのに気づき、すぐに思考を中断したのだった。




「――準備は出来ましたか?」

「あぁ、いつでも大丈夫じゃ」

 康生へ作戦を実行することを伝えた上代琉生は、その後すぐにリリスに確認をとる。

 もうこれ以上負傷者を出さないためにも、一刻も早くあの物体を消滅させなければならないからだ。

「じゃあお願いしますね」

「あぁ、任せるのじゃ」

 そうして準備が整いリリスはそれを起動させるために魔力を流し込んだ。

「これは本来我の家系にしか伝わってないものじゃが……。もうこうなってしまった以上は仕方ないか」

「うん。今はそんなこと言ってる場合じゃないよ。人類の命運がかかってるんだから」

「そうじゃな」

 代々伝わってきた大事な技術だが、それでもエルの言う通り今はそんなことを気にしている場合じゃない。

 だからこそリリスもすぐにこの作戦に了承した。

「それじゃあいくぞっ」

 そうして覚悟を決めたリリスは両手を広げて呪文を唱え始める。

 呪文を唱え始めるとリリスの目の前に地面にうっすらと魔法陣が浮かんだ。

 一体何が始まるのかと、それを見た兵士達は動きを止め、同時に急激に放出された魔力を感じて物体もその動きを止める。

 だが物体が魔力を吸収するよりも先に、魔力はすぐに魔法陣に吸収され、その魔法を完成させた。

「リリス様っ!お待たせしましたっ!」

 次の瞬間、魔法陣の中からメルンの声が響くのだった。

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