第604話 同時

『任せて下さい』

 そんな自信たっぷりのAIの声に康生は僅かにだか安心したように微笑んだ。

 十年もの間一緒に過ごしてきたAIだが、やはりどんな場面でもこれほど頼もしいものはないのだろう。

「それで俺はどうすればいい?」

『ご主人様はこのままあの物体を引きつけて下さい。後は上代琉生と共に作戦を実行します』

「おっけー!」

 AIからの言葉に返事を返した康生は、今度こそ目の前の物体に集中する。

 あれの相手をするだけでも、常に四方八方からの攻撃に加え、魔力を吸収する感覚を意識しなければ攻撃すら出来ない。

 今までも集中して戦ってたが、どこか周りを意識する節があったが、今度こそ康生は完全に目の前の敵だけに集中できる。

 それだけAIの存在が大きく、またそれを任せられる仲間がいるからだった。


『――ということです。大丈夫ですよねリリス様?』

 そして康生が敵との戦いに集中し始めるのと同時に、AIは早速上代琉生達へ作戦の概要を話す。

「……なるほどな。確かにそれを使えばこの状況を変えることは可能じゃが……。全く……、お主もえらいことを考えるものじゃ」

 AIの作戦を聞いたリリスはため息混じりに答える。

『はい。ですが今はそれが確実な方法なので』

「確かにそれなら、この方法を打破出来るかもしれないな……」

 AIの言う通り、今はその方法が一番確実だと上代琉生は納得した。

『ですがまだ細かい部分は決まってませんので、その部分はお願いしますね』

「分かりました。そっちは俺でやります」

 作戦の方向性が決まったということで、上代琉生は脳味噌を回転させて作戦の概要を詰める。

 その間リリスはAIに言われたように準備を始め、エルは引き続き治療及び現場の指示を出していた。

 そしてAIはというと、康生への指示を出しつつ、戦況を大きく見渡して全体への指示も出していた。

「皆っ!後少しだけ頑張って耐えてっ!」

 エルはそんな中、必死に兵士達を励ますように声を張り上げるのだった。




「メルンっ!リリス様から連絡が来たっ!」

 場所が移り、ここは異世界。

 リリスからの連絡を受け取ったリナさんはすぐさまメルンの元へと訪ねていた。

「なんですかっ!今こっちは忙しいんですよっ!ただでさえ初めて作る魔道具なんですからねっ!」

 しかし工房の中でメルンは必死に魔道具を制作しており、死にものぐるいで魔道具制作にあたっていた。

「あぁ分かっている。だが一応報告をしにきた。その魔道具だが作り終わったらすぐに――」

 怒鳴られたリナさんだが、それでもすぐにメルンにリリスからの伝言を託す。

「――なっ!?本気で言ってるんですかっ!?」

 そして説明が終わると同時と、メルンは手を止めて目を見開いたのだった。

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