第510話 尋常

「今度は一体なんだっ!」

 突然の爆発音にザグはすぐに反応する。

 爆発音の正体は分からないが、それによって目の前の物体は多少なりとも影響を受けたようで、形を変化させながら風圧に耐えていた。

 ――康生を止めて。

 エルは確かにそう言っていた。

 だからこそ康生の身に何かあったのかと、ザグはすぐに身構える。

「ふっ、ようやく来たかっ」

 爆音が轟く中、頭上に浮いている指揮官は微笑んでいた。

「やっぱりお前がなんかしたのかっ?」

 先ほど康生の話をしていたので、何か嫌な予感をザグは覚えた。

「さぁ、それはどうだろうな」

「ちっ!」

 いけ好かない態度にザグは苛立ちを隠しきれずに思わず舌打ちをする。

 だがまずはすぐに康生の姿を探すことにする。

 雷の物体に注意を向けながらも、ザグは周囲を確認する。

「ザグっ!そいつは俺に任せろっ!」

 すると土煙が舞う中から康生は姿を現す。

 目の前の雷の物体を無視しながら、一直線に指揮官へと向かっていく。

「おい、一体どうしたんだよっ!」

 こちらに見向きもせずに、ただひたすらに指揮官だけを見据えて突撃する康生にザグはやはり違和感を感じる。

 当然、そんな康生を雷の物体が見逃すわけがなく、すぐに攻撃を加えようと動きだす。

「危ねぇぞっ!」

 康生の目には、まるで攻撃が見えない様子だった。

 ザグは咄嗟に声をかけて庇おうとするが、それでも間に合いそうになかった。

「邪魔するなっ!」

 だが攻撃が当たる寸前に、康生は雷魔法を使って打ち消してしまう。

 手加減も何もない攻撃に、思わずザグにも攻撃が届いてしまう。

「おい康生っ!」

 咄嗟に回避をしたザグはすぐに康生に抗議を入れようとするが、やはり声が届いていない様子だった。

「一体どうしちまったんだよっ!」

 あまりにもいつもとかけ離れた様子にザグは困惑する。

 だがその間にも康生は指揮官へと向かって攻撃魔法を放とうとしている。

「さぁ、こいっ!」

 指揮官はそんな康生から逃げるわけでもなく、防御の体勢をとるわけでもなくてただじっと待ち構えている。

 そんな様子を見て康生はさらに感情が荒くなっていき、魔法の威力も応じて高くなっていく。

「死ねっ!」

 殺意をたっぷりと込めた魔法を康生は何の躊躇いもなく放つ。

「おい!死ぬぞっ!」

 魔法の威力を見てザグは咄嗟に止めようと再び声を張り上げるが、康生はそれでも止める様子はなく、たっぷり魔力が込められた炎の塊が一直線に指揮官を貫こうと放たれた。

「いっけぇっ!」

 確実に殺すように康生は勢いよく魔法を放った。

 だがその瞬間に、雷の物体が尋常ではないスピードで指揮官の前へと現れたのだった。

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