第507話 遺産

「くそっ!本当にいやがるっ!」

 雷の物体が現れたと聞いて、すぐさま向かったザグは目の前で暴れているそれを見つける。

「ここは俺達に任せろ!こいつは攻撃を仕掛けても無駄だ!とにかく攻撃をさせて魔力を消費させろっ!」

 必死に抵抗している仲間達を見て、ザグはすぐに声を張り上げる。

 周りをみると敵兵の姿はなく、遠くから傍観しているようだった。

 先ほどもあの物体は敵兵でもかまわず攻撃しようとしてきた。

 恐らく今回も敵味方の区別がないので敵兵はあんなにも離れているのだろう。

「誰かやられた奴はいるかっ!?」

「何名か意識不明の者がっ!」

「くそっ、早速魔力をとられたかっ」

 雷の物体の前まで移動すると、ザグはすぐに戦況を確認する。

 懸念していた通り、仲間の体から敵は魔力を吸収したようだった。

 既にエルの元へと運ばれ治療を受けているようだったが、とにかくこれ以上魔力をとられるわけにはいかなかった。

「こいつの近くには絶対に近づくなっ!とにかく遠くに広がれっ!」

 雷の物体の目の前に対峙したザグはすぐに現場の指揮をとる。

 先ほどの戦闘で康生の戦い方を見ていたからこそ、戦い方は知っている。

 今はザグが康生の代わりに敵をひきつける。

 だが今回は味方の数が多い。

 恐らくだが先ほどよりも早く決着がつくとザグは考えたが、すぐに思いとどまる。

(こいつはさっき倒したはずなのにまた現れたんだよな……。どういう原理か知らねぇが、さっきと同じようにやってちゃだめだ。何かこいつを倒す方法があるはず……)

 目の前で繰り広げられる猛攻撃を必死に回避しながらザグは思考を巡らせる。

(ちっ。こういうのは俺の役目じゃねぇんだよっ。とにかく康生達が到着するまで時間稼ぐしかねぇなっ)

 だがザグはあまりこういうのは向いていない。

 考えるよりも体を動かすのが性にあっている。

「くそっ!さっさと死ねよっ!」

 思考を放棄したザグは、敵に向かって吠えるのだった。




「英雄様っ!落ち着いてっ!!」

 奈々枝が精一杯叫ぶ。

 だけど康生の動きは止まることはない。

 とんでもない早さで攻撃を繰り出す中、指揮官は寸前のところで回避する。

 先ほどからそれの連続で康生が動きを止めることはなかった。

「魔法というものは本当に便利だなっ!」

「くそっ!」

 流石に康生は力を抑制しているのか、全力では挑んでいない様子だった。

 だからこそ指揮官は寸前のところで回避出来ている。

「貴様のバカな親もつくづく負の遺産を残してくれたよなっ!」

「そんなことは、ないっ!」

 猛攻撃が続く中、康生達の戦いはさらにヒートアップしていくのだった。

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