第458話 一抹

「――今すぐ立ち去れ」

 竜から発せられた声が辺りに響きわたる。

 兵士達は当然、未知なる恐怖にただただ怯えていた。


「静まれっ!」


 だがそこで指揮官の一人が声を張り上げた。

 そして同時に鉄砲音が響きわたる。

「みよっ!あの竜はただの幻影にしかすぎないっ!」

 何事かと思って兵士達が見上げると、竜の腹部分に小さな穴がぽっかりとあいていた。

 どうやら銃の玉が竜に当たったようだった。

 そしてその小さな穴により綻びが見つかる。

「ほ、ほんとだ……あれはただの幻影だ。実体なんかないんだ……」

 そう。竜の正体はなんでもないただの幻影だったのだ。

 そうして奈々枝達が仕掛けた罠があっさりと見破られた。

「恐らく裏切り者達の仲間がこの近くにいるはずだっ!」

 さらに指揮官は康生達の仲間がいることもずばり言い当てる。

「だが案ずるなっ!」

 指揮官の言葉に兵士達は動揺を示したが、すぐに一声によって静まる。

「敵は恐らく少数だ!それに奴らはあの隊長達の部隊を行かせた!だから本体はここにはいない!だから何も心配せず用心して進めっ!」

 指揮官の言葉で兵士達の指揮が元通りになる。

 だからこそ冷静に、そして慎重に罠がないかどうか確かめながら進行を再会する。

「くそっ、妨害電波のせいで通信はできないか」

 そんな中、康生達を襲いにいった兵士達と連絡をとろうしたが、自ら設置した妨害電波のせいで連絡をとれないことを思い出す。

 そしてそれが指揮官達の唯一の失敗となる。

「まぁ、いずれ奴らはここにくることはできないだろうな」

 唯一の失敗とは、康生達が負ける未来しか想像していなかったことだった。




「おい、いいのか?奴ら先に進み始めたぞ?」

 兵士達が進行を再開するのを遠くから見張っていたザグはすぐに奈々枝に尋ねる。

「大丈夫よ。本来の目的としては敵に警戒させることだから」

 しかし足止めできなかったが、結果的には成功したと奈々枝は話す。

「でも……。思ったより早く進み始めちゃったな。やっぱり敵にも優秀な人がいるのね」

 それでも少しぐらいは時間が稼げると考えていたのか、敵の早急な対応を見て奈々枝は少しだけ悔しがる。

「まぁ、でも大丈夫。皆には引き続き妨害工作をお願いするわね」

「おうっ、任せとけっ」

 そうして奈々枝は、ザグ達と共にさらに敵兵の進行を妨げるように動き始める。

(このままだとぎりぎり英雄様達が間に合うかな?でも唯一の不安は異世界の動きなんだけど……)

 ザグ達と共に妨害工作をしながら、奈々枝は一抹の不安を抱えるのだった。

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