第440話 力

(どうする……)

 幸いなことに火の玉が落下してくるまではわずかながら時間はある。

 恐らく時雨さんにバレないようにするため、できるだけ遠くで放ったものだからだろう。

 しかし時間があるからと言って悠長なことは言ってられない。

 それに目の前の隊長達も死なせるわけにはいかないのだ。

(なんとか隊長達に信じてもらえればいいのだが……)

 だが先ほどからいくら、魔力を使いすぎると市死ぬことを説明しても聞く耳を持たない。

 敵だから当然のことだが、それでもなんとかしなければいけない。

 何か……何か方法が……。


「うっ!」


(なんだ……?)

 悩んでいる時雨さんの耳に、小さなうめき声が聞こえる。

 視線を向けると、隊長の一人が苦しそうにしながら地面に倒れていた。

「おいっ!どうしたっ!」

 それに気づいた隊長達はすぐに声をかける。

 隊長達に若干の焦りが見えているのは、恐らくその倒れた人物がこの火の玉の魔法を放った人物なのだろう。

 エル達から魔法を持続して使うとそれだけ魔力がたくさんいる、と言っていたのを時雨さんは思い出す。

 そしてそれを一つのチャンスとし、時雨さんはすぐさま隊長達に語りかける。

「ほら見ろっ!魔力を消費し続けると倒れてしまう!魔法の維持だってできない!仮に死なないとしても、お前達は火の海の中で魔法が解けることがあるんだぞ!」

「うぅっ……」

 流石に目の前で味方が倒れれば、多少時雨さんの言葉に説得力が生まれる。

 その隙に時雨さんはさらにたたき込む。

「それに見ろ!奴の放った火の玉を!制御を失って自然落下している!魔力がなくなると魔法は消えない!つまりお前達は焼け死ぬことになるんだぞ!」

 必死に攻撃を回避しながら時雨さんは声を張り上げる。

 そしてその効果あってか、隊長達の動きが自然と鈍くなった。

「今ならまだ間に合う!だから皆逃げてくれ!」

 だからこそ時雨さんは頼み込む。

「おい……どうする?」

 すると隊長達は動きを止める。

 しかし時雨さんを囲んだままで、しっかりと見張りながら。

 どうやら時雨さんの言葉を多少なりとも信じたようだった。

 しかし、

「悩んでいる時間はないっ!すぐに逃げろっ!」

 話し合おうとしている隊長達に向かって武器を振りかざす。

 そうしている間にも火の玉は刻一刻と近づいていた。

「ひっ!」

 その火の玉を見てか、隊長達は突然恐怖に支配されたかのように固まった。

「くそっ!」

 隊長達の様子に苛立ちながら時雨さんは隊長達を逃がそうとする。

「悪く思うなよっ!」

 そう言って時雨さんは魔道具を発動させ、隊長達を吹き飛ばす。

「ふぅ……これで」

 そして一人残った時雨さんは火の玉を見上げる。

「このまま私も逃げればいいのだか、それでは壁が壊れてしまうな」

 ここは拠点の中、内部から壁を壊すわけにはいかない。

「仕方ない。上代琉生よ、すまないがあの力使わせてもらうぞっ」

 そう言って時雨さんは火の玉めがけてつっこんでいくのだった。

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