第418話 抑制

「国王っ!敵陣営見えてまいりましたっ!」

 広野を進む軍隊の中に、一つだけ豪華な馬車が用意されていた。

 その中で優雅にコーヒーを飲んでいた国王の元に一人の兵士がやってくる。

「そうか。ということは敵は逃げてないということだな?」

「はっ。少なくともかなりの数が残っていることを確認しました。しかし、敵は巨大な壁を建設していまして…少しばかり時間がかかるかもしれません」

 兵士は現状を報告する。

 突然壁のことも報告すると、国王はわずかに窓から顔を出して双眼鏡を取り出す。

「ふむ、壁か。あの程度のものならそう時間はかからないだろう。なんたって私たちには特別な兵器があるからな」

 わずか一週間あまりで出来たはずの壁を見ても、国王は対して表情を変えることなく言う。

 それどころか、逃げ出さずに迎え撃とうとしている康生達をあざ笑っているようにも見えた。

「それで作戦の方は現状のままで?」

 そんな国王に恐る恐るという感じで、兵士は尋ねる。

「あぁ、問題ない。兵器を中心として壁の破壊、および敵全員の抹殺を行う。所詮は奴らのほとんどは人だ。兵器の前に何もすることも出来ないさ」

「了解しましたっ!」

 兵士はそれだけ聞くと早々に馬車の中から退席する。

「ふんっ……」

 そして一人残された国王は何やらつまらなそうにコーヒーを口にふくむ。

「全く、いらぬ手間をかけさせよって。まさかあやつらの息子があんな力を持たされていたとはな」

 そうして悪態をつきながら一気に飲み干すと、勢いよくグラスを投げる。

「こんなことならばもっと早めに見つけだして入れば……」

 国王は表情を苦くしながら睨む。

「まぁ、しかしその技術は今は我のもの。いくらあやつらの息子でも勝てるわけがあるまい」

 そう言って国王は一人、誰もいない馬車の中で醜い笑みを浮かべるのだった。




「やっとだな」

 敵地へと向かう軍団の中の一角。

 その者達を避けるようにぽっかりと空いた穴の中にはおよそ十人弱の人がいる。

「ようやく奴らに復讐することが出来る」

 その中にいる男は、遠くからわずかに見える巨大な壁を見ながら笑みを浮かべていた。

「落ち着いてくださいよ隊長。今からそんな興奮してたら体が持ちませんよ?」

 そしてその隣にいた男が、なだめるように男に話しかける。

「ふんっ、気持ちが高ぶらずにいられるかっ。この時を私はどれだけ待ちわびていたことかっ」

 しかし男は抑制も聞かずにただただ醜悪な笑みを浮かべててまっすぐ前を向いている。

「待ってろよ康生。今俺がお前を倒しに行ってやるっ!」

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