第417話 敵

「いよいよだな」

 日が昇って朝になり、康生達はいよいよ決戦のため地上へとあがる。

 康生の周りにはエルと時雨さん、そしてリナさんの四人が立っている。

 遠くを見渡せるほどの高くあるその場所は、今回の決戦のために作られた砦だった。

 地下都市がある場所を中心に、異世界人達の魔法の力を借りて円上に張り巡らされた一つの巨大な壁を作ったのだ。

 壁には大きな門が一つあるだけで、それ以外は全て防衛のための設備が施されている。

 圧倒的な数相手に戦うため、上代琉生を中心に考えた案の一つだ。

 これならば敵が攻めて来る方向を制限することができる。

 それに壁を破壊しようとしたり、壁を乗り越えようとする者がいれば、当然隙ができいくらでも対処が可能だ。

 壁のいたるところに兵士がそれぞれ待機してあるのでしばらくの間は持つだろうと考えられる。

 そして正面の門には時雨さんとリナさん率いる少数の兵士達が待機している。

 この二人を元に門から突撃してくる敵を全て防ごうという算段だ。

 さらに壁のいたるところに康生が考案したトラップが設置されている。

 一時的なもので急場しのぎで作ったものだが、皆の力が合わさったおかげで完成度の高いものになった。

「敵が来るのはあと一時間後くらいなんだよね?」

 敵が来る方角を前にして康生達は遠くを見据えている。

 そんな中でエルが確認ついでに康生に話しかける。

「あぁ、上代琉生の話ではそうみたいだ」

 現在も尚、この戦いのために裏で頑張っている上代琉生を思いながら康生は答える。

「この戦いで本当に終わってくれたらいいんだけどね」

 今までの戦いを思い出したのか、エルは急に寂しそうな表情を浮かべた。

「どのみち今から相手どるのは人類の最大戦力だ。少なくともこの戦いが終われば人類側が干渉されることはほぼなくなるだろう」

 そんなエルの不安に時雨さんは少しでも和らげるよう答える。

「そうだな。時雨の言う通りだ」

 そしてリナさんもゆっくりと頷く。

「…………」

 そして誰もしゃべらなくなる、辺りに静かな空気が漂う。

 この戦いは皆それぞれの想いを胸に秘めている。そして同時に、今回の戦いは今まで以上に壮絶なものだということも知っている。

 正直この要塞一つで確実に勝てるなどとは思っていない。

 だからこそ皆精一杯頑張ろうとしている。

 そんな想いの元、今日皆は戦場に立っている。


「英雄様っ!」


 静まりかえっていたその場に慌ただしい声が響いた。

 康生達はゆっくりと振り返る。


「たった今敵軍確認しましたっ!この速度だと恐らく残り数十分ほどで到着するかとっ!」

 兵士の一人が報告を終えると、康生はゆっくりと息を吐く。


「よし、じゃあ皆行くぞっ!」


 そうして康生達は全人類を敵にした戦いを迎えるのだった。

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