第414話 咄嗟

「おいっ!あの話は本当なのかよっ!」

 ザグが大声をあげてリリスの元へとやってくる。

「騒がしいぞザク」

 夜中ということもあり、リリスはザグをなだめるように言う。

 しかしザグは夜中だろうが関係なしに、リリスに問いつめるように近づいてくる。

「康生達が狙われてるって情報は本当なのかっ!?」

「なんじゃ、その話か」

 どうやらザグの耳に、康生達がピンチであることが伝わったようだ。

 情報元はどこかは知らないが、ザグの様子を見るに恐らくここにいる異世界人達にもすでに知れ渡っていることだろうとリリスは予感する。

「本当じゃよ」

 だから当然リリスは何も隠すことなく真実を伝える。

「それじゃあ俺達こんなところにいる場合じゃないだろっ!すぐに助けにいかなくてどうするんだよっ!」

 どうやらザグは康生達を助けるために動こうとしているようだ。

 というかザグにとっての目的は元々それだった。

 康生達と共に人と一緒に暮らせる世界を作る。

 そのためにザグは国を捨てここに来たのだ。

 なのに康生達がピンチになっている中、何もしようとしないリリスにザグは怒っているようだった。

「我達が今いって何になる。いいか?我達は人と共存しようとしている異世界人達にとっての唯一の希望なんじゃよ。それなのにこの場所を捨て、人間界にいけばその者達はどうなる?」

 リリスはあくまで冷静に、たしなめるようにザグに話す。


「この場所の者達は皆同じ目標を持っておるのじゃ。それはお前だけではない。そもそも我々の目的は人と我々を結ぶためのつながりであること。我達にとってのつながりは康生達であり、康生達のつながりは我達じゃ。康生達は必死に人間達に訴えかけている。なのに、我々だけそれをせずにどうして人間界にいけるのじゃ」

 ザグをなだめるため、リリスは淡々と目的を述べる。

 だからこそ康生達の元にはいけない。

 リリスはそう言った。

「だが……」

 しかしそんな理屈で納得できるザグではない。

「康生が死んでしまったらどうなるんだよ!つながりも何もなくなっちまうだろうがっ!それに俺は仲間がピンチなのに助けにいかねぇのが一番嫌いだっ!」

 リリスはあくまで論理的に、ザグは感情に訴える。

 恐らく二人の意見は交わることはないだろうと、そんな気がするほど真っ向から対立していた。

「あくまで康生達の元へは行かねぇんだな?」

「あぁ、今はまだその時ではない」

 ザグもどうやらこれ以上何を言っても無駄ということを感じとったのか、諦めたようにリリスの元を後にする。

「それじゃあ俺は勝手にやらせてもらうからなっ」

 そう言ってザグは背を向けて立ち去ろうとする。

「ま、待てザグっ!」

 しかしリリスは咄嗟にザグを呼び止めるのだった。

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