第403話 決行

「ふぅ……。ったくあいつめ、勝手に出て行きやがって」

 静かな部屋で一人、国王がゆっくりと腰掛ける。

 先ほどまで騒がしかった部屋だったが、今は国王一人だけになり随分と静かになった。


「――だから俺は行くからなっ!」


 最後にザグが言った言葉を思い出して国王はわずかに口元を緩めた。

 結局許可も何もとらずに、一人で勝手に出て行ってしまったザグを思って国王はどうやら笑っているようだった。

「まさかあいつまでもがあっちにつくなんてな」

 開け放たれたままの扉を見ながら国王は呟く。

 そこにザグの面影を見ているか、その表情はとても優しいものだった。

「自分で決めたことだぞザグ。だったら途中で諦めたりするなよ」

 国王は今更になって、ザグに対してそんなことを呟く。

 当然その場には国王ただ一人しかないので、その言葉に返事する者も向けられた者も一人もいない。

「だが俺は認めないからな」

 しかし国王の表情はすぐに厳しいものになる。

「国民を蔑ろにして出て行ったリリスもその父親も、国を捨てたエルもザグも、皆俺は認めない」

 国王は先ほどまでの緩い雰囲気から一変、険しい目つきで窓の外を見る。

「お前達は急ぎすぎだ。そして無責任だ。だから俺はお前達の敵であり続ける」

 そうして国王は遠い空を見上げたまま、固い決意とともに呟くのだった。




「――康生っ、大変だっ!」

 場所が変わりここは地下都市の中。

 康生はいつものように工房の中で籠もっていると突然扉が開かれる。

「どうしました時雨さん?」

 慌てて入ってきた時雨さんは康生の姿を発見すると、息を整えながら近づいてくる。

「今!中央都市から放送が流れてきたっ!国王自らがその姿を見せているっ!」

「えっ?」

 中央都市といえば、全ての地下都市を束ねている場所だ。

 そこの王。つまり全人類の王である人物が突然放送を流したそうだ。

「分かりました。すぐに行きます」

 なにやら不穏な空気を読みとった康生は、作業を途中でやめてすぐ時雨さんの後に続く。


「あれは……」

 時雨さんに案内された場所は広場だった。

 広場の中央にはいつの間にか大きなモニターが設置されていた。そしてそれを囲うように街の人たちが重い空気で見守っていた。

「康生っ」

 広場につくと先に到着していたエルが近づいてくる。

「一体何があったんだ?」

 エルの神妙な表情を見て、康生の嫌な予感はさらに加速していく。

「それが……」

 とエルが説明しようとした瞬間、モニターの中から一層大きな声が聞こえてきたのだった。


『現時点を持って!人類の裏切り者である村木康生ら一党の殲滅作戦を決行する!』

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