第253話 か細い腕

「がっ!」

 咄嗟に受け身をとった康生だったが、思ったよりも傷を受けてしまった事に驚く。

 それほど先ほどの攻撃は完璧に決まるはずだったのだ。

 だが防がれてしまった。

 しかもこちらが攻撃を受けて。

「ふぅ……危ない所じゃった。まさかもうあれを使わせるとはな」

 それでも息を整えているリリスを見て、向こうもそれだけの力を使ったのだと理解する。

 力の正体が理解出来ないままでは戦闘を再会するのは難しいと考え康生は咄嗟に距離をとる。

「今の力は一体?」

「何簡単な事じゃよ。体内の魔力を外に放出しただけじゃ」

「魔力を放出……」

 詳しい事はよく分からないが、恐らくリリスの魔力を使ってあの力強い風を引き起こしたのだろう。

 しかしあれは風と呼ぶにはあまりにも攻撃的すぎて康生は戸惑う。

 そして同時に新たな魔力の使い方を知り、頭の片隅にこっそりとメモをとった。

「それよりそんなに距離をとってもよいのかの?見たところ遠距離武器は持っていないように見えるが」

「敵の心配をしている場合ですか?」

 心配してくるように言ってきたリリスだったが、康生の言葉ですぐに笑みを浮かべる。

「はっ、そうじゃった!それじゃあ遠慮せずにいかせてもらうぞっ!」

 リリスが叫ぶと同時にその鞭を康生に向かって走らせる。

 鞭は一直線に康生に向かって飛んでくる。

(同じ手は二度と通用しませんよっ!)

 前回同様、康生は鞭を避け次への攻撃の準備をする。

 すると康生の予想通り鞭は方向を変えて向かってくる。

「甘いっ!」

 康生は鞭に触れないように瞬時に回避する。

 当然第三、第四の攻撃がくることを予測しながら。

 しかし第三の攻撃は思わぬ所からくるのだった。

「それはこちらの台詞じゃっ!」

 そう言ってこちらに向かってくるのはリリス。

(どうして)

 一瞬の内に康生は考える。

 なにせ康生の目の前、鞭の先にはそれを操っているリリスがいるのだから。

 だけど目の前にもう一人のリリスがいる。

 その事に驚き、康生は思わず回避をとるタイミングを見失った。

「これで終わりじゃっ!」

 そのか細い腕をリリスは伸ばしてくる。

 恐らく今度こそ康生の魔力を全て吸い取ろうとしているのだろう。

 実際、もう一度魔力を吸われてしまえば康生は恐らく戦闘不能になってしまう。

(それだけは避けなければっ!)

 考える全ての手を使って康生は遅れながらも回避、もしくは攻撃を受ける作戦を考える。

 その時間わずか一秒足らず。

「そうはさせませんっ!」

 伸びてくる手。そしてそれから逃げようとする先に待ちかまえてくる鞭。

 それら両方から逃げるために康生は思い切り力を入れる。

「いっけぇぇ!!」

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